第2の冒険 不倫タンポポ事件

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第2の冒険 不倫タンポポ事件

不倫タンポポ事件 ①  今日も1日の授業が終わった。  放課後だ。  部活の時間だ。  研究だ研究だ。  半ば歌うようにつぶやきながら僕は、最早(もはや)マイ部室となった理科室に向かった。    理科室の引き戸を開けようとした時だった。いつぞやのように、理科室の中で何やら騒がしい声が聞こえるのだ。    しかも、女生徒の声。前回の池田静さんよりも早口で大声だった。  おそらくその雄たけび攻撃を浴びているのは大浦先生だろう。  ときどき「はあ」とか「え?」とか言葉にならないうめき声のような反応が聞こえた。  僕は、すぐには理科室に入らず何を話しているのかドアの所で聞き耳を立てた。 「先生なら信じてくれますよね!」  女生徒は言い放った。  声の調子からかなり真剣な様子が感じられた。  明らかに二人は向き合っているようだが、大浦先生の苦笑したような顔つきが目に浮かぶ。 「き、君はそのタンポポのせいで、君の犬が死んだと言いたいのですか?」  大浦先生が、意味不明のことを言っている。 「ふんっ!」  女生徒の鼻息が聞こえた。かなり興奮しているようだ。 「違います先生! 『タンポポのせいで』なんて生ぬるいものじゃなくて、 『タンポポが』殺したんです。私の大切なジョンを!  ああ。かわいそうにあんな死に方をするなんて。信じられません」 「いや、私もその場を見てないから何とも言えないが、タンポポが犬を殺すなんてどんな状況なんだ? 植物が動物に噛みつくのか? 食犬(しょくけん)植物(しょくぶつ)かな?」  わ! 大浦先生、女生徒の怒りと悲しみの気持ちをわからずに、すっとぼけたことを言ってしまった。こりゃあ反撃が来るぞ。 「先生……もう! 茶化さないでください! 私の一番大切な友達が。ジョンが殺されたんですよ。何も悪いことをしていないのに。あんなにかわいいジョンが……」  ここでしばらく沈黙が続いた。女生徒は泣いているようだ。低い嗚咽が聞こえた。  そして 「犯人は絶対ぃぃタンポポだあーーーー! 」  叫び声と同時に、教卓を強くたたく音がした。ドンという音とともに少しだけパキッと木の折れる音がした。ひょっとして机を割ったか? 「ひえ! 」  おびえる声だ。これは大浦先生だ。  僕は、そっとその場を離れることにした。今ここで理科室に入ると、(わら)をもつかみたい状態の大浦先生の(わら)になってしまう。  それに今の理科室の雰囲気は、沸点に達している。僕は、やけどをするのは嫌だ。  理科室のドアから離れようとUターンして一歩踏み出そうとした時だった。  だれかに僕の腰のベルトを(つか)まれた。ここを去れないじゃないか。 「は? 誰だよ? 」  僕は振り返った。  誰もいない。しかし、確かに誰かに僕のバンドを掴まれている感触がある。  僕は視線を下に向けた。  白いワンピースを着た少女が、僕を見上げてベルトをしっかりと掴んでいた。  その顔! 「静さん? にしては小さすぎるよね……」 『文鳥事件』の池田静さんを幾分幼くした感じの少女だった。  少女は(うなず)いた。  ここでいう『静さん』とは、池田静さんの妹の明里ちゃんから(ゆず)り受けた文鳥の(ひな)の名前だ。今、僕が学校で手乗り文鳥にすべく飼育している、白い雛文鳥なんだ。 「君は、ハク文鳥の静さんかい? 」 「そうよ。お父さん! 」  つづく
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