第2の冒険 不倫タンポポ事件

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不倫タンポポ事件 ⑤ 「警察か……。一つの手だとは思うけど。まず被害に()ったのが人間ではなく犬だろ。それも『花の(におい)いを()いで死にました』では警察が僕らを信用して動いてくれるかどうか……」 「ええー。ひどい! 被害者は私のジョンなのよ! 」 「うん。気持ちは分かるよ。だけどジョンの死があのタンポポの花粉によるものかもわかってないからね。そこまで調べてくれるかどうか」 「じゃあ、だれに相談するのよ? 」 沙門さんは親指の爪を()みながら言った。 「今の所、手っ取り早いのは先生だ。なんだかんだ言っても理科学部顧問の大浦先生は顔が広いんだ。まず、大浦先生に話すよ」 「ええー。あの先生、全然私の話を聞いてくれなかったのよ。たよりになるの? 」 「たよりになる! 大浦先生自身じゃなく、大浦先生の人脈(じんみゃく)がたよりになるのさ」 「わかった。じゃあいそいで学校にもどりましょう! 」  腕時計を見ると16時30分だった。  僕と沙門さんは、ビニール袋にぐるぐる巻きにされたバケツを持って学校に戻った。  下校中の生徒とすれ違いながら、僕らは職員室を目指した。  一応バケツは理科室に置いて僕が管理し、沙門さんが職員室の大浦先生を呼びに行った。  しばらくすると沙門さんに手を引かれて大浦先生が理科室に来た。  高校教諭が女生徒に手を引かれるか?先生まだアラフォーだろ。  大浦先生は僕を見て言った。 「いやあ、七海君すまない。この子の話を聞いてくれたんだね」  大浦先生はまだ、沙門さんの話が人生相談か何かだとのんびりかまえていた。 「先生! はっきりしたことは詳しく調べないとわかりませんが、もしかしたら沙門さんは大変なものを見つけたかもしれないんです」  僕にしては少し緊迫感を演出して言ってみた。  僕は、先生から沙門さんの話を聞くように言われた時からさかのぼって話をした。さすがに理科の先生である。ことの重大さがすぐに()()めたようだった。  大浦先生は、バケツを指さして言った。 「そのなかにアナフィラキシーを起こさせたタンポポらしきものがあるんだね」 「そうです。厳重に包んでます。根っこも土ごと持って帰りました」 「わかった。僕の先輩に祓戸(はらえど)大学の教授がいるんだ。心理学の教授で若いけどあらゆる学部にコネがある人だ。そうそう、犯罪心理のことで警察ともつながりがあるとも言っていた。その先輩にすぐに相談するよ」 「祓戸大学って、あの大きな総合大学ですか? 大浦先生さすがお顔が広いですね」 「いやいや、高校の時の先輩でね。伊座薙(いざなぎ)っていうんだ。  これはことによっちゃあ沙門さんのいうとおり人命にもかかわるかもしれないからね。今すぐ連絡してみるよ」  大浦先生の素早い対応を見て、沙門さんも溜飲(りゅういん)が下がったようだった。気が抜けたのか椅子に座りこんだ。  大浦先生がスマートフォンで、先輩の伊座薙教授に連絡を取ってくれた。  もちろんその伊座薙教授がどんな人かはわからないが、以外にも今すぐ問題のタンポポを大学に持って来てほしいと言われた。    今すぐにだ。    大浦先生は、了解しタンポポを祓戸大学に運ぶことにした。 「先生、僕も同行させてもらっていいですか? 生えていた場所や回収方法など情報を提供できると思います」  すると沙門さんも言った。 「私も、行きます。大事なジョンを殺されたのは私ですから」  それを聞いて大浦先生は言った。 「わかった。わかった。なんやかや言っている場合じゃないからね。とにかくこのタンポポが危険なものかすぐに調べて、拡散(かくさん)していないかどうか調べないとね」  僕らは、タクシーに乗って祓戸大学に向かった。  何と祓戸大学の入り口のロビーで、男が何人か待っていて、こちらに近づいてきた。  その中のワイシャツを腕まりして丸眼鏡をかけた中肉中背の男が駆け寄って来た。 「伊座薙先輩! お久しぶりです」  大浦先生は言った。この人が伊座薙教授らしい。教授は、挨拶(あいさつ)はどうでもいい感じで大浦先生に言った。 「大浦君! 咲いている不倫(ふりん)タンポポが見つかったんだね? 」  伊座薙教授は言った。 『不倫タンポポ』? 今、教授は確かにそういったぞ。 「もちろん、調べてみないとわからないが、君の話から推測すると、明らかに不倫タンポポの特徴を示している。とにかく不倫タンポポだったら大変なことになる。すぐに調べるから」  そう言うと、伊座薙教授は、近くにいた3人の白衣を着た研究員らしき者を呼んだ。  そして、タンポポの入ったバケツを渡した。 「十分気を付けてくれ。それから成分検査(せいぶんけんさ)とDNA分析(ぶんせき)の方にまわしてくれ。防疫(ぼうえき)体制を(みつ)にしてな! 」  伊座薙教授は、てきぱきと指示をした。 「急ぐように」 「はい! 」  と言って3人の白衣の男たちはエレベータに向かって走って行った。  伊座薙教授の様子を見ていると、何かとんでもない緊急事態が起こっているような印象を受けた。後で分かったが実際そうだったんだ。  伊座薙教授は、白衣の男たちが分析に向かったのを見送って、少し落ち着いたようで、僕たちに向かって話しかけた。 「みなさんすみません。挨拶もろくにしないでばたばたとしてしまって。とにかくこれがもし『不倫タンポポ』だったら、この先対策を立てなければならないんでね」 「あのー。不倫タンポポって何ですか? 」  沙門さんが、伊座薙教授に聞いた。 「君があれを見つけてくれた人ですか? その状況を詳しく聞きたいので僕の研究室まで、皆さん来てください。そこでなぜあれが不倫タンポポと呼ばれるかも話しましょう」  伊座薙教授は、先に立ってエレベーターに向かった。  つづく
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