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何でそうなるんだ? ここからは、静さんの仕事でしょ。
「もう、卵が孵らない問題の答えは出たんだから、あとは静さんが自分で解決してください!」
少々冷たい言い方だったかもしれないが、僕は早く自分の癒しを得たいので、静さんにいとまを告げた。
「お願い! 七海君……シロちゃんのお婿さん探しに付き合って……一生のお願いだから」
一生のお願いとは大げさなと思い、静さんの顔を見ると目にまた涙を浮かべていた。なんだよ、たかが鳥を買いに行くだけだろう。何で泣くんだよ。
静さんは、睨むような上目遣いで僕を見て言った。
「七海さん……この女は、何でこんなに大げさなんだと思っているでしょ?」
「え?」
よ、読まれている。
「いや、うん……まあ、静さんは何でそこまで、必死になっているのかなとは思うよ」
「そうよね。初めて会って、いきなりシロちゃんのお婿さんを一緒に探して、何て言われても困るよね…………わかった。……」
静さんはそう言うと、僕から少し離れて、制服のブレザーを脱ぎ始めた。
「え? 何?」
僕は静さんが、何をしようとしているのか、よくわからなかった。静さんはさらにベストのファスナーを下して脱いでしまった。さらに紐ネクタイをほどいて、シャツのボタンを外し始めた。それも胸元を通り越してお腹の辺りまで、外した。
「ちょっと! 静さん! なんだよ! やばいよこんなとこで服を脱ぐなんて!」
女子高生が男子高生の前で、服を脱ぎ始めるのは、ただそれだけでやばいよ。
「七海君、見て」
そう言って静さんは、シャツをはだけて、さらに下着をずらし、僕に背を向けた。
「え! 静さんこれって……」
静さんの背中に、黒いほくろ状の小さな腫瘍の塊が広がっていた。僕は、女子高生の素肌と言うことを忘れて、その腫瘍を観察した。これって……。
「そう、皮膚がん。悪性黒色腫と言うの。もうリンパ節に転移しているってお医者さんにいわれた。余命なんとかは言われてないけど、良くならないのは確か……。いつも自分の体のことが不安で、不安で。
そんな時に文鳥のシロちゃんを飼い始めたの。シロちゃんは私に毎日生きる勇気をくれた。凛とした優しい目で私を見てくれたの。『今日も楽しく生きてね! 』って言ってくれているみたいだった。
そんな時、シロちゃんが卵を産んだの。このまま子どもが孵ると思った。シロちゃんの子どもが生まれるのがとても嬉しかった。シロちゃんと子どもたちで賑やかになってもっともっと楽しくなると思ってた。
でも、いつになっても卵は孵らない。わたしは、いつまで元気でいられるかわからないけど、シロちゃんの子どもたちを一刻も早く見たいの。それで、すこし焦っていたの。七海君ごめんなさい、わがままを言って。
体がいつ不安定になるか、わからないから怖いの。だから七海君に一緒に行ってもらいたいって言ったの。七海君は信用できる人みたい。だからお願い。」
何か差し迫った事情があるとは思ったけど、結構重い話じゃないか。しかし聞いてしまった以上無下にことわるわけにはいかないよな。女の子にここまでのことをさせて、ほっておくわけにはなあ。
と、その時、理科室に他の部員が入って来た。
バットタイミングってやつだ。
女子学生が2名楽しく談笑をしながら来たのだが、僕と静さんの状況を見ると……。
まあ、普通に挨拶をする状況じゃないよな。
女子の静さんは、まだ背中を出した状態で、それを眺めている僕は男子だ。
2名の女子は案の定予想された反応をした。
「きゃー! な、七海君何をしているの! 先生! 先生! 七海君と女子が変なことをしています!」
と叫びながら近くにいる先生を呼びに行った。
「違うぞー! 何か変な勘違いするなよ!」
と言っても、もう遅い。幸いしたのは女子生徒2人がいっしょに先生を呼びに、理科室を出て行ったってことだった。
誰もいない今のうちにとんずらできる。
「静さん、やばいよ。今のうちに服を着てすぐにここを出よう。シロちゃんのお婿さん探しに行こう!」
「いいの? ありがとう七海君!」
静さんが服を着る前に抱き付いてきた。だからやばいって、と思いつつちょっとうれしい。
「ぐずぐずできないよ。ここは1階だから窓から出よう。その窓から脱出だ! 」
静さんは、上着を抱えて、シャツのボタンを締めつつ窓に向かった。
僕と静さんが窓から飛び降りて、校門に向かっているときだった。背後からさっきの女子生徒の金切り声がした。
「先生! あそこです。あの2人です」
あの2人って、悪いことなんか何もしてないし。僕は、今飛び出してきた窓を振り返った。女生徒がこちらを指さしている。生徒指導教員もいる。僕が違和感を覚えたのは、その中の女生徒が発した言葉だった。
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