第7の冒険 対決! 赤芝紅華! 七海君 最後の冒険

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第7の冒険 対決! 赤芝紅華! 七海君 最後の冒険⑲ 「七海さん。お願いだからおとなしく種を渡してちょうだい。でないと私」  ぼんやりと暗さに()れてきた目で見ると、赤芝は金属バットを頭上(ずじょう)()りかぶっていた。 「わああ! 」  僕は一瞬(いっしゅん)早く右側に飛びのいた。    バットは、テーブルを直撃(ちょくげき)した。  強化(きょうか)ガラスのテーブルが割れた。  さらに、赤芝は右に左にとバットを振って僕を攻撃してくる。その(たび)に、 「この! 」  とか 「返せ! 」  とか叫んでいる。  おおい、危険物(きけんぶつ)処理班(しょりはん)はまだかよ。  赤芝紅華が一番危険物だよ。  バットが、家具や、壁に当たって、手当(てあ)たり次第(しだい)破壊(はかい)されている。  一番やばいのが、外のドームハウスを破壊することだ。  それに気付(きづ)いたのか、赤芝は、外に向かった。  僕は、とっさに赤芝にタックルした。  赤芝は、僕のタックルで(たお)()んだが、振りかぶっていた金属バットは僕の頭部(とうぶ)を直撃した。  おそらく一瞬(いっしゅん)だったろう。僕は意識を失った。  次に気が付いたときは、左側頭部が激しく痛んだ。いくら痛くても生きているのは確かだった。 「いてててて、あの野郎(やろう)、思いっきりやったな」  (なぐ)られたところを()ると、少しぬるっとした。出血(しゅっけつ)している。手に着いた血を見たが大量に出血してはいなかった。  そうだ、赤芝は!  ドームハウスは!  いくら側頭部が痛もうとも、これだけはほっておけない。  ドームハウスを見た。暗闇(くらやみ)の中に見えるハウスは、特に破壊されている様子はなかった。  僕は、ハッと気が付いて胸ポケットを(さぐ)った。  ない。  種の入った封筒を赤芝に()られた。  赤芝はどこだ。暗闇になれた目でガラスドームとは反対側のビルの(はし)を見た。  フェンスの所で赤芝が夜景(やけい)を見ていた。僕は、ふらふらとそちらに近づいて行った。普通に歩いているつもりなのだが、なぜか足元がふらふらした。  赤芝が僕に気が付き言った。 「気が付きましたのね。手荒(てあら)なことをしてごめんなさいね。だって、七海さんが素直に封筒を渡さないのがいけないのよ。約束をやぶってはいけませんわ」  そう言って、赤芝は、僕のポケットから(かす)()った封筒を見せた。 「もう、いずれにしても逃げられないぜ。(あきら)めろ。赤芝紅華」 「そう。もう逃げられない。逃げる必要もないわ。この種を処分しますから。私と一緒(いっしょ)に」  そう言い終わると、赤芝はフェンスを(のぼ)り始めた。    おい、まさか! そこから飛び降りるつもりじゃないだろうな。  僕は、赤芝を(つか)まえるべくフェンスに飛びついた。 「諦めろとは言ったが、死んでいいとはいってないぞ。赤芝やめろ、()りてこい! 」 「私から金属バットで殴られてもそんなことを言うなんて、七海さんてホントいい人ね。  いい人っていうのはね。私から言うとバカっていうことよ。七海さんは大バカよ」  赤芝の体はもうフェンスの反対側に(たっ)していた。そして、七海に向かって言った。 「じゃあねえ」  と言って、赤芝は両の手をフェンスから話した。 「バカ! 」  これは、僕のセリフだ。  僕は、赤芝の(うで)を取った。もちろん片手でだ。  もう一方の手はフェンスの上の部分を(にぎ)っていた。  つまり、落ちたら終わりのフェンスの所で僕が、片方の手で赤芝を(つか)んで、もう片方は、フェンスを握っているというよくあるパターンの構図(こうず)だ。  赤芝は、力を()いてただぶら()がっている。  こいつは、きつい。重い、痛い。  でも離せない。  赤芝ああ、自分で上って来てくれ。 「赤芝、友だちになろう。一緒に楽しいことをやろう。だから、僕自身が力尽(ちからつ)きる前に(あが)って来いよ」  赤芝は、僕の方に顔を向けた。その顔は微笑んでいた。 「一緒に力尽きるっていうのはどう? 」 「もう、まだそんなこといってんのかよ。僕は、いやだからな」  でも、ほんとに僕のフェンス側の手は力が尽きる寸前だ。  赤芝は言った。 「七海さん。ありがとう」  そう言うと、もう片方の手で僕が赤芝を持っている手を()(はら)った。  しまった! するりと握っている腕が抜けてしまった。  赤芝は、暗い闇に落ちて行った。  そして……ドサリという音が聞こえた。  落ちたんだ。  天ノ使のように消えたんじゃない。確かに地面に落ちたんだ。  しかし、僕も呆然(あぜん)としている場合ではなかった。  フェンスを握っていた手が限界(げんかい)()えた。  つまり、フェンスから手が離れてしまった。  僕もドサリか……。  その瞬間、僕の手を掴む者がいた。誰だ僕を助けてくれた人は。危険物処理班の人か?  僕は、顔を上げた。  静さんだった。  静さんは、20歳ぐらいの女性の姿になっていた。がっちりと両手で僕を掴んでくれていた。 「もう大丈夫よ。おとうさん」 「静さんありがとう。命を助けてもらったのは2回目だね。ほんとうにありがとう。でもここが良く分かったね」 「おかあさんが、七海おとうさんはここにいるから助けに行ってといわれたの」 「ああ、シロか。シロにも世話になったな」  僕は、フェンスを()()えて屋上(おくじょう)()()った。  体中の力が抜けて僕は、その場にあおむけに寝そべった。星がきれいに見える。  急に周りが明るくなった。伊座薙教授が送電(そうでん)復帰(ふっき)させたのだ。  僕は、ドームハウスを見に行った。ドームに傷一(きずひと)つなく、不倫タンポポは、ハウスに密閉(みっぺい)された状態だった。  僕の胸ポケットから不倫タンポポの種を取り出したことで、終わりにしたのだろう。  やがて、エレベーターから、伊座薙先生を始めとして、危険物処理班や西桃園高校の生徒の面々(めんめん)がやって来た。  僕は、赤芝がここから落ちたことを話した。  伊座薙教授から帰ってきた答えは、意外なものだった。 「君の盗聴(とうちょう)マイクから、すべて聞こえていたよ。いま下で警察が彼女の落ちたらしい場所を探し始めているんだが、どうも赤芝の姿が見えないらしい」 「ええ? 真っ暗だったので、落ちた瞬間(しゅんかん)までは見えませんでしたが確かにドサリと落ちた音が聞こえました」  僕は、少々ムキになって言ったと思う。 「あ、先輩の(かた)に、文鳥(ぶんちょう)がいる。かわいい! 」  日向がいった。  この子は、こんな状態の中で、ぼくの肩に何で文鳥がいるのか疑問(ぎもん)を持たないらしい。天真爛漫(てんしんらんまん)な子だ。  つづく
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