第1の冒険 文鳥の卵はなぜ孵らない?

9/10

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
 静さんのお母さんが何かを言おうとした時、僕は大変なことに気付いた。 「ああああ!この模様!」  思わず声が出る。 「え? え? 何? どうしたの七海君?」 「シロちゃんて、完全に真っ白じゃないんですね。背中にグレーの斑点状の模様がある」 「そうなの、羽の()えかわりでもなかなか真っ白にならなくって。それがどうしたの」 「このグレーの模様。僕が、静さんの背中で見た、黒色腫の模様と全く同じです。これは……。静さんの背中の黒色腫は、シロちゃんの模様じゃないか。この共通点は、どういうことだ」  お母さんの指先のシロは、僕を見て首をかしげながら、 「チュン」  と鳴いた。 「七海君、さっきあなたが渡してくれた足輪は、シロちゃんがいつも、つけている物なの。それをシロちゃんに会ったことのなかった、あなたが持っているということは」 「ま、待ってください。僕は今日初めて、静さんにも会ったし、初めてここへ来たんだし。それ以前に、シロちゃんの足輪を取るなんてことはできませんよ」 「わかってる。この足輪はシロちゃんが自分で外したんだ。私に七海君を信用させるために」 「ど、どういうことですか?あの背中の模様と言い、足輪と言い、まあ足輪は静さんがシロちゃんの足から外して僕に渡してくれたと思いますが。」  静ちゃんのお母さんは、頭をゆっくりと左右に振って言った。 「それは、絶対にありえないの。静は今、ここにはいないから」 「では、あくまでも僕自身のとっても、とっても非現実的仮説ですけど、今日僕と会っていた、池田静さんは、あの背中の模様から考えて、シロちゃんじゃないかと」  その時、シロがお母さんの指先から飛び立ち、僕の肩に止まった。 「実は、私もそう思う。七海君はシロちゃんが認めた、信用できる人みたいだから……。今までことを話してくれない?」  静さんのお母さんは、あっさりと僕を信じてくれたようだ。    今の状況を、事実として認めているのか? そうとしたら、よほど悟りを開いている人か、スピリチュアル系の人だろうか。  とにかく、僕は今日の放課後、理科室に行ったところから話を始めた。    静さんがいたこと、卵が孵らないと相談されたこと、自分の黒色腫のこと、明里ちゃんのこと、マロを買いに行ったこと、そして卵をとりかえるように言われたことなど、目まぐるしかった今までのことを、僕自身も事実を確認するように話した。 「そう……大変だったわね。七海君ありがとう。シロちゃんもいい人と出会えて良かったね」  え? 静さんは? 結局シロってことでいいのか? 静さんはどこだ?  静さんのお母さんは、少し涙ぐんで、僕の肩に止まっているシロを見る。シロは、飛び立ち今度は、リビングルームを出て奥の部屋へ行った。  シロを見送って、静さんのお母さんは、ハンカチで涙を拭いて言った。 「そうね、シロちゃん。七海君にも本当のことを知ってもらわないとね……。七海君。ちょっと奥の部屋へ来てくれる」  そういって僕と、静さんのお母さんはリビングを出て、廊下の奥の部屋へ向かった。そこは座敷の居間だ。古いタイプの居間で仏壇が置かれている。 「うん?」  僕は、仏壇内に立てかけてある写真を近寄ってみた。    静さんだった! 学校の制服を着てほほ笑んでいる。 「これって……?」 「そう。静です2週間前に交通事故で……自転車に乗っていて車とぶつかって……」 「亡くなられていたのですか……」    そういえば、最近全校朝礼で、交通事故に気を付けるように、という注意喚起があったような覚えがある。ちょうどあの時、静さんは事故に遭っていたんだ。じゃあ、やっぱり今日僕と一緒にいたのは、静さんの幽霊か、シロが静さんに化けたものということになるのか? 「静が事故に遭ったのは、ちょうどシロちゃんが卵を産んだ頃でね。シロちゃんの子どもが見たくて。お婿さんを買いに行く途中だったの」 「そうですか、だからあんなに必死になって卵を孵したかったんだ」    静さんの写真の横で、シロが僕を見ていた。 「そういば、明里ちゃんという妹さんがいらしゃると聞いたんですが」  僕は、行った。 「ええ、明里は今、学校に行けない状態なんです。でも、さっきの話のようにシロちゃんの子どもを見れば元気づけられて、手術をする勇気もわいてくると思うんですが」  静さんのお母さんは言った。 「あの、もしよければ、明里さんとお話をさせてもらえないでしょうか? 」  僕は、シロの方をチラリと見て言った。シロは、飛び立って居間から出って行く。明里ちゃんの部屋へ行ったのかもしれない。 「どうぞ、どうぞ。明里もシロちゃんのお友達になった七海お兄さんとお話ができて喜びます」  ついに僕はシロのお友達のお兄さんになってしまった。  僕は、明里ちゃんを緊張させないように、笑顔で部屋に入った。明里ちゃんはベッドで、飛んできたシロを指先に乗せて、おしゃべりをしているように見えた。 「こんにちは、初めまして明里ちゃん」  明里ちゃんは、丸い目をこちらに向けてはにかんで言った。 「こんにちは。お兄ちゃん誰?」 「僕は、明里ちゃんのお姉ちゃんと同じ学校の友達なんだ。それとシロちゃんともお友達だよ」 「ええ? 本当? シロちゃんともお友達なの?」
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加