秘密の花園さん

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 ぱちん。  ぱちん。  切り裂いた朱色の生身がどろっと落ち、炎の中で身を焦がす。  よじれはじめた途端に、炎の中からさっと取り出す彼女。  摘んだ肉の表面は泡立ち、血が湧き出るように滴り落ちる。  口に運びもぐもぐとした後、黒褐色のワインをくいっと傾けた。  「美味しい〜」  目をつむり肉汁に集中している口角から、血のような液体がひとすじ垂れた。  人差し指で拭いぷるんとした唇に塗りつける仕草には、ふだんの可愛らしい雰囲気を上塗りする色っぽさが漂っていた。  「レアでよく食べれるよね」  「食べてみる?」  一切れ摘んだ箸を向けてくる。  「あーん」  顔を近づけると、とろけるような肉と彼女の匂い。    噛みつこうとした歯が空を切る。  箸を自分の口に突っ込み、そのまま頬張る。  「やっぱりあげない」  付き合いはじめて6ヶ月。  1月にあった街コンで出会った、彼女。  美容師学校に通っている、歳が1つ上の彼女は、花園さくらという名前にぴったりな可愛らしい小柄な体型と性格とは裏腹に、食べっぷり・飲みっぷりがすごく良い。  焼肉を口いっぱいに頬張り赤ワインをぐいと嗜む姿に当初は驚きを隠せなかったが、そのギャップに愛おしさを感じるようになっていた。  焼肉屋に2時間もいれば、お腹もいっぱいで、脳も酔っぱらいになる。  満月が輝く空の下、手をしっかりとつなぎ、彼女──花園さんの家に向かう。  花園さんの家は歩いてすぐだが、数ヶ月前に付近で首のない遺体が見つかったり、最近は刃物による通り魔事件が相次いでいるから、一人で帰らせるわけにはいかない。  それに。  週末の金曜日。  明日は大学の講義も、バイトの予定もない。  二十歳の男なら、恋人との甘く熱い夜を期待するのも当然だろう。
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