黒髪黒目のお姉さん

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黒髪黒目のお姉さん

 今日はいつも通り、普通の日。でも何故か胸騒ぎがする。なんだろう、これは。もやもやする。でも今日は仕事の日なので、うだうだとしていられない。黒い髪にかるくアイロンをかけて少し地味な服を着る。何かさっきとは違う違和感があるなぁと思ったらコンタクトを入れていなかった。家を出るまであと5分。急いでコンタクトを入れ、鏡の前でにっこりと笑う。顔に張り付いた笑顔は間違いなく私だ。  くるっと踵を返し、玄関に向かう。多分家の前には車がついている頃だろう。学校に行く準備をしていた姉に声をかけてから家を出て、用意されている車に乗りこみ先に乗っていた運転手さんとマネージャーさんに挨拶をしてから席に座る。  マネージャー曰く今日の午前中にとある雑誌とCMの撮影、私のことを記事にしてもらうためのインタビュー、今度ある握手会でファンの方々に渡す色紙のサイン入れをするらしい。午後はボイストレーニングをしてからダンスのレッスン、スポンサーをしてくれる企業のお偉いさんとの会食が入っている。  CMは猫用のおやつをとりあげるらしい。世間からの評価も高そうだ。私も猫は好きな方なのでちょっと嬉しい。仕事に楽しみができるのはモチベーションがアップするのでいいことだと思う。  詰めすぎたスケジュールをこなしていると時間が飛ぶように過ぎていく。薄っぺらい紙のようだ。違和感の正体は未だに分からない。あれはなんだったんだろう。もしかすると杞憂だったのかもしれないな。  気付けば日が落ちていた。もうそんな時間か。今日も1日何も無かった。そんなものだ。  帰る支度を終えて帰路につく。辺りはもう真っ暗で時折吹く風がゆるゆると足元を漂う。 ぽつぽつと点のように立っている街灯の下、 人通りのない道をただ歩く。なんだか今日は不思議な気分だ。  家に程近くなってきたのでそのまま帰らず少し散歩してから戻ろうと思ったところで、手に持っていたスマホがポコンと音を立てて鳴いた。見ると姉からメールが届いていた。内容は早く帰ってこいとのことだったので散歩は諦めて家に帰ることにした。
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