第12話◇「恋人」

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「……撃ち抜かれて?」  優月が不思議そうに、蒼さんの言葉を繰り返しながらオレを見つめてくる。視線が思い切り絡んだ瞬間。何だか一気に照れて、オレは思わず視線を逸らしてしまった。 「え。……玲央、照れてる?」 「……ちょっと黙ってて」 「……っていうか、玲央が照れると、オレまで照れるし」  顔熱い……。と、視線の端で、優月が顔をパタパタしてるのが見える。  …………マジで、今、キスしたい。 「……里村が変なこと聞くから、すげーあてられて終わっただろーが」 「つーか……何、この子。まっすぐ過ぎねえ? 何それ、側に居たいって、そんなまっすぐ言われるとか」  蒼さんの呆れたような言葉に、さらに里村さんの呆れたような声が重なる。 「蒼が可愛がり過ぎたんじゃねえの? こんな記念物みたいなのに育っちゃって」 「会った時すでになんか他のガキんちょとは違ったぞ」 「じゃーもともとこんなだったのを、お前が育てたんだろ」 「そこまで一緒に居ないし。勝手にこう育ったんだよ」  オレには、2人の言ってる意味が、ものすごくよく分かるけど。  優月は、何を言われてるんだか、分かっていないみたいで。  一応話の流れ的には自分の事かなくらいは分かってるみたいで、聞いてはいるけど、何言ってんだろ、とばかりの怪訝な顔して、目の前の2人を見てる。  何かすごく可笑しくなってしまって。  耐えられなくて、笑いながら、優月の頭をクシャクシャ撫でたら。  きょとんとしてオレを見た後、また、嬉しそうに笑う。  それを見ていた目の前の2人が、また呆れたようにあれやこれや言い始めた。  なんか、やっぱり、優月が。  ――――……「最強」な気がする。   「もう分かった。イジらねえよ。つまんねーし」 「面白がるから、返り討ちにあうんだよ、バカだな」 「……蒼が可愛がってるっつーだけあって……未知の生物かもなー……」  そんな里村さんの言葉に、蒼さんは、なんだそれ、と笑ってる。 「もしかして、玲央くんのが大変なのかもな」 「――――……」 「こんな特殊な感じの、他に居なそう」  里村さんの言葉に、ちょっと深呼吸。 「芸術の人達て――――……人をあれこれのぞき込むの、得意なんですか?」  そう言いながら、里村さんの後に、蒼さんにも視線を合わせると。  2人は、く、と苦笑い。 「図星だって」 「らしいな」  クスクス笑ってる。  優月は、分かってるんだか、分かってないんだか。  何も言わず、考えている風だったけれど。 「そりゃ、玲央の付き合ってた人達とは、多分、オレ違うと思うけど……」  むー、と少し膨れてる。  ……ちがうな。そう言う意味で特殊とか言ってるんじゃない。  分かってねえなあ、やっぱり……。  ふ、と笑うと、蒼さん達も笑う。 「とりあえず思い切り恋愛してみろって、優月に言ったもんな?」 「うん」 「大体にして、その年まで何もない方が不思議なんだから。せっかく好きな奴出来て、お互いそうなったんだから、頑張れよ」 「ん」  蒼さんの言葉に優月が頷いて、オレを見つめて、「頑張っていい?」と聞いてくる。「当たり前」と答えると。また嬉しそうに笑う。 「なんか、見てると、あほらしくなるなー」  里村さんがニヤニヤ笑いながらそう言った。 (2021/11/12)
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