第1話◇出会い

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 優月と別れてバンドの練習場所に辿り着き、遅刻を責められながらも、一通り練習を終えた。一旦休憩という事になったので、ソファに腰かけた。  オレがメインボーカル&ギター。 小村甲斐(こむら かい)がサブボーカルとギター、和泉勇紀(いずみ ゆうき)がベース、里見颯也(さとみ そうや)がキーボードとドラムを曲によって弾き分ける。  最初は中学の学園祭用の遊びで始めたバンドなので、何もかもが適当で始まった。  バンド名は「アンク」=「Ankh」  古代エジプトで「生命」とか「生きること」として使われた言葉。  甲斐とバンドを組もうと言い出した時に、ネットから適当にいくつかの単語を引っ張ってきた中から、安易に名付けた。  残りのメンバーの人選は任せたら、甲斐が、勇紀と颯也を選んだ。  選んだ理由は至って明確。  ルックスと、一緒にやりやすいかと、あとは普段から人気がある奴。  楽器はある程度できればあとは練習すればいい位で、技術は後回しにして選んだ結果、学園祭で終わらず、今まで続いてる。  幼稚園からのエスカレーターで大学まで来てるので、良くも悪くも、気心知りすぎたメンバー。 「なあ、玲央なんで遅刻したんだ?」  向かい合ったソファに座りながら、甲斐(かい)がそう聞いてきた。 「んー。まあ、車で送られて着いた時はもうギリギリだったっつーか」  ついついだるくてベンチに座ったけど、あのまま来ればたいして遅刻はしなかったかも。……その後、優月に会ったから、完全に遅刻した。  とは言っても、時間にしてみれば、ほんの短い、出会い。 「でも学校に居たんだろ? 何してた訳?」 「んー……」 「なんでそんなご機嫌な訳? 気持ち悪ぃんだけど。新しいセフレが良かったとか??」  甲斐は性関係については、オレと似たような所があって、自由が一番て奴なので、そこらへん、話してても楽。 「甲斐に遅刻責められてんのに、ご機嫌だし。変だよなー」  突っ込んできて笑ってるのは、勇紀(ゆうき)。  勇紀は、セフレとかではなく1人の女と一応ちゃんと付き合うのだけれど長続きせず、振ったり振られたり、忙しい奴。色んな事に気付く奴なのに、恋愛となると、チャラくて軽いから、としか言いようがない。 「ほんと。歌ってても機嫌良いのすげー分かるし。 気持ち悪い」  眉を顰めて言ってくるのは、颯也(そうや)。  この中では常識人。イケメンではあるけど、チャラくはなくて、1人の子と高校からずっと付き合ってる。玲央と甲斐のセフレ関係に、たまに苦言を呈してくるのは颯也。たまに……というか、割といつも毒舌。 「ほんとほんと。玲央、気持ち悪い」  勇紀が、颯也の言葉に乗っかって、そう言ってくる。 「……オレそんな、機嫌良いか?」  首を傾げながら聞くと、3人が真顔で頷いてくる。 「だから皆言ってんじゃん、気持ち悪ぃって」  甲斐のセリフに、思わず眉が寄る。 「ほっとけっつーの……」  そんなにか?  まあ確かに、なんかちょっと、優月の顔が浮かんでは、いるけれど。  機嫌良い、ねえ……。 「20分も遅刻しといて、ご機嫌で現れたんだから、理由位言えよなー」  しつこく突っ込んでくる勇紀をちら、と見て。 「んー……なんか面白いのに会った、かな」  そう言うと。3人が、ん?と一斉に見てくる。 「面白いのって?」 「なになに?」 「新しい女?」  颯也、勇紀、甲斐の順番で、次々聞かれる。  なんとも言えない。  なんとなく、キスして。  でもものすごく中途半端なとこで、別れてきて。  ……月曜、とは伝えたけど、約束した訳でもなくて。 「…いや。特に話すような事は、ねえな」  3人とも、それぞれ何だか怪訝そうな顔で、こっちを見てくる。 「つーか、今更何隠すことあんだよ?」  甲斐のセリフに、苦笑い。  ――――…まあそうなんだけど。    思いながら、何となくまた、優月を思い返す。 (2021/3/24)
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