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と、その時。
聞きなれない着信音がして、目の前の玲央が画面を見て、少しためらってから、電話に出た。
「もしもし――――……ああ、つか、もう着いてんだけど……ちょっと途中で……分かった、今から行くって」
それだけ言うと、電話を切った。
「バンド仲間から呼び出し。練習だから、行かねえと……」
「あ……うん」
「……優月。キスしても、いい?」
ぐい、と引き寄せられて。
返事が出来ないまま数秒見つめあって。
やっとのことで、うん、と頷いた瞬間。
唇が、重なって。
何度か、角度を変えられて、より深く重なってから。
舌が、入ってきた。
「……っ……っ……」
舌を絡め取られて、熱くなる。
「……っん、ぁ……」
上顎をなぞられて、ぞく、として、声が漏れる。
さっきしたキスと同じ。熱くて、激しくて。
でも、優しい、キス。
「……っん、ん……」
少しだけ離れて、ふ、と息をついた唇にまた、キスされる。
……好き、だなぁ、この、キス。
――――……他の人としたこと、ないけど。
玲央のキスは……すごく、好きだと思ってしまう。
ヤバい、なあ……。
こんなに気持ちいいものなら。
ずーっと、してたい、かも……。
ゆっくり解かれて。瞳を、開けたら。
最後にもう一度、押し付けられるように、唇が重ねられた。
「優月……」
「……?」
「月曜何限まで?」
「……えと……5限……」
「……オレと寝てみる気になったら、月曜の5限の後ここに来て。初めてなんだから、考えて決めろよ。それで無理なら来なくていいけど――――……」
「――――……」
「……優月」
まっすぐ、見つめられて。
名を呼ばれて。頬に触れられた。
「来いよな。そしたら、すっげえ優しくしてやるから」
そんな台詞に、耳まで熱くなる。
玲央は、ふ、と優しく笑って。
ちゅ、と頬にキスして、オレを離した。
「じゃな」
言って。
嵐みたいなその人は、去っていった。
「――――……」
姿が消えてから。
力が入りっぱなしだった体が一気に脱力した。
ぷしゅ。
――――……全身から空気が抜けていった気がする。
フワフワ浮いてるみたいな気がする足でなんとかベンチまで歩いて、腰かけて。そのまま、頭を抱え込んだ。
何だったんだ。――――……何だったんだ、この数分。
……ていうか。
今の全部、玲央が言ったんじゃなければ。玲央がしたんじゃなければ。
オレが、玲央を受け入れてなければ。
もう……
……完全、変な人だっつーの……。
玲央じゃなかったら……キスだって、しちゃだめだし。
出会ってすぐ、キスとか……絶対、無いよね……。
ていうか、たとえ玲央だって、だめだと思うけど……。
でも多分……オレが、少しも、拒否らなかったから、
――――……続けたんだと、思う、けど……。
玲央の世界では――――……あんなのが、当たり前なのかな。
「クロ、どっかいっちゃったな……」
いつからいなくなっちゃったんだろ。
それすらも気づかなかった。
玲央のことしか、見ていられなかった。
オレ、どうしたらいいんだろう――――……。
……関わらない方がいいって、分かってはいるんだけど。
時計を見ると、12時半。
――――……まだ、智也と美咲、学食に居るはず。
幼馴染たちの顔が、ぱ、と浮かんで、早足で、歩き出した。
(2021/3/16)
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