5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
二週間という長めの出張を終え、真っ直ぐ帰宅した優はオートロック前でもエレベーターの中でも足踏みしながら早歩きで玄関ドアへ向かう。
「ただいま香里!」
おかえりなさい、とスリッパを鳴らして香里が出迎える。
「よかったわ、無事で」
「ああ」
大げさだ、と笑いながらキャリーを三和土に置く。いつも通りビジネスバッグとコートを預けリビングに入れば、優はなんだとため息をついた。
「いるじゃないか猫ちゃん」
香里に話すとき、招き猫の呼称は猫ちゃんに統一されている。
「それが、今日戻ってきたの」
「今日?」
ええ、と香里が頷く。
「確か夕方頃だったかしら。本当よ」
気を引くために嘘をつくような性格ではない。俯いて不安がる香里に「香里を疑ったりしてないよ」と告げて優はテレビ前のソファへ座る。
――速報?
「新幹線止まっちゃったのよ」
速報帯で流れるテロップには優が乗った直後の新幹線が「突風による落下物で足止め」と繰り返されている。
「ちゃんと帰ってこられてよかったわ」
香里は笑顔で綻んだ。その表情に優はすっと背筋が凍る気持ちがした。
*
最初のコメントを投稿しよう!