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送別会に行く前に、優は自宅へ向かった。これから優は目の前のドアを開けて、香里に聞かねばならないことがある。
「香里、毎日猫ちゃんに」
――ああ、違う。
「香里、毎日招き猫になんの呪いをかけているんだ。もちろん君を愛しているが、妙なことが起きすぎる。疑わざるを得ないよ」
――うん、こっちだ。
優はふうっと息を吐き、玄関ドアを開ける。
「ただいま」
いつもの出迎えが来ない。おや、と優は首をひねる。
「香里?」
リビングのドアからうっすら明かりが漏れている。カチャン、カチャンと硬いものを合わせるような音がして、優は香里が中にいるのだと息をのむ。リビングドアの隙間から様子を見ると、香里はテレビボードの前に倒れていた。
――そんな!
「香里! どうした!」
優はかっと目を開き、ビジネスバッグを投げ捨てて香里のもとに駆け寄る。
「しっかりしろ!」
倒れている香里の肩を支えて抱き起こす。突然の大声と揺すられる身体に「きゃっ」と香里は驚いた。
「あら、おかえりなさい優さん」
優だと気づけば香里は安心して息をつく。
「大丈夫か?」
「え? やだ、はしたない姿を見せてしまって。どうしても破片がひとつ見つからなくて探していたの」
香里はむくっと起き上がって優に言った。
「破片?」
「優さん、ごめんなさい」
正座して、香里は頭を下げる。
「猫ちゃん割っちゃったの!」
「え?」
優はきょとんとする。香里のそばの新聞紙の上には割れた招き猫が集められていた。
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