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「なぜか猫ちゃんが涙を流していて、拭いてあげようと思ったらぱりんって……」
香里は招き猫の目の部分を持ち上げる。
「けがをするから、貸して」
優はその破片を香里からもらい、涙の跡をそっと拭う。
「そうか、そうだったのか」
「優さん?」
今度は香里が目を開く。
「何でもないよ」
肩を震わせ、大の男が涙目だ。
――俺は全く逆のことを考えていたんだ。
二年前に現れた招き猫、香里と出会ったことで消えてしまった招き猫。結婚も何もかも愛しい香里の言うとおりに決めて、香里が「行きたい」と言った新宿のオカンのおかげでもう一度招き猫に会えた。
「香里、ごめんな」
「え?」
とっくに死んでいたはずの優が今日まで生きてこられたのは全部香里と招き猫のお陰だったのだ。
――気づいてあげられなくてごめんな。
「愛してる」
優は香里を抱きしめた。
「はい、私も愛しています」
香里は頬を染めている。
「あの、ところで優さん」
「ん?」
「今日は送別会なのでは?」
「ああ、でも香里が気になって帰って――」
優ははっとした。
――招き猫が割れなければ送別会に行くはずだった……まさか!
「ちょっと電話をかけてくる」
呼び出し音を数回聞いても、幹事は電話に出ない。
――頼む、出てくれ!
プツッという音がして「課長!」と言った幹事の声は普段よりもガラガラに嗄れていた。
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