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「陶器、かな」
招き猫をノックすると乾いた音が空洞に響く。優の予想通り、招き猫は陶器でできていた。黒くて左手を高く挙げおり全体的にぽてっとした印象を受けるフォルムをしている。
両腕に抱えたらすっぽり胸に収まるような大きめのサイズ感は今どきなかなか見ない大きさだ。骨董品の風格をしているにも関わらずきれいに手入れされているのは、よほど大事にされていたのだろうと優は予想した。
「一体誰が持ってきたんだ。お前はどこから来たんだい」
ベランダや玄関を確認したけれど誰かが侵入した形跡はない。不気味がるべきなのだが、ぽってりとした招き猫の表情に、優は嫌悪感以上の愛らしさを抱いていた。
――とはいえこのままベッドに鎮座されていては床に眠ることになってしまう。
優はローテーブルの下に手を突っ込んだ。
「あ、あった」
隠れていた客用の座布団を引っ張り出して、ベランダでばさばさ払う。
「とりあえずこちらへどうぞ……って重っ」
落とさないように慎重に、カラーボックスの上へ移動した。
「よし、いいぞ」
軽く頭まで撫でてしまう。子どもの頃から優は、折れた花を見つけては繋げてやり、道ばたにミミズが転がっていれば土に還すような愛情深い男だった。二、三回招き猫の頭を撫でていると湯の沸くが聞こえてくる。
「コーヒー、コーヒー」
ゆすいだマグカップにコーヒーをブラックで淹れる。
「お前も飲むか?」
もちろん招き猫は返事をしない。優は適当なマグカップに水を入れて目の前に置こうとしたが、手を止めた。
「ちょっと大きいか」
優は「そうだ」と放ってあったバッグを探る。
ちょうど駅ビルでおちょこを買ったのだ。桜の絵付けがあしらってある、安売りにしては可愛らしい白い陶器には優も容易に手が出せた。
「うん、こっちが似合う」
そう言って水を入れ直し、優はもう一度招き猫の頭を撫でた。
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