うちに招き猫がいます

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 リモート飲みからさらに一週間後、招き猫が現れて二週間経った金曜日。優は残業にならぬよう必死にパソコンとにらみ合っていた。 「最近、ここらで物騒な事件多いわよね」 「昨日は大通りでひったくりがあったそうよ」 「犯人捕まってないって」  女子社員の世間話にいらつきながらも優は指を止めない。今夜は太樹の紹介でとある女性と食事をするのだ。 「オカルトオフ会で最近彼氏と別れたっていう女の子がいたんだ。紹介させてくれよ」  お互い酔っていたので、ノリでオーケーして連絡先を教えてもらった。翌日すっきり目覚めた優は軽率な自分に青ざめたが、メッセージアプリでのやりとりを見返せば「香里(かおり)」という名の女性はとても感じがいい。しかも来週末に会う約束までしていた。  ――断るのは会ってからでもいいか。  優は勢いに任せた出会いに学生ぶりの高揚感を得ている。終業まであと30分。タイピングにも力が入った。 「そういえば○△駅の東口で通り魔あったの知ってる?」  ――○△駅?  優の最寄り駅だ。ピクッと優はタイピングを弱めた。 「△△商店街でも不審者が出たって。どっちも捕まってないらしいわ」  ――なんてことだ、毎日通っているのに知らなかった。香里さんに連絡して早めに迎えに行こう。  優は初めてプロジェクトを任された新人時代のようなモチベーションで終業前に仕事を終わらせ、会社をあとにした。
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