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「△△商店街は通らないでおこう、物騒な事件があったみたいで」
「まあ、大変」
結果、香里は優の想像以上に清らかで美しかった。太樹と同じオカルト好きというのが信じられない、と優は思った。ありきたりなバルで食事をしたら「招き猫をぜひ見たい」というので家に向かっている。
――まるでナンパじゃないか。
まるで、どころか初めからそれを口実に誘っていると言うことを優はすっかり忘れている。
「どうぞ」
「お邪魔します」
優は夕べ万が一と部屋を片付けた自分に心の中でガッツポーズを送る。
「あら?」
「どうされました――あれ?」
どうしたことか、優の部屋にいるはずの招き猫は影も形もない。残っている座布団とおちょこに香里は近づく。
「ここにあったのですか?」
「は、はい! 本当に! いたんです!」
あった、と香里は言ったのにわざわざ優はいたと言う。おかしいな、本当ですよ、と優は繰り返して部屋をぐるぐる回る。その様子をみて香里は耐えきれずに「ぷ」と吹き出した。
「ふ、ふふ、大丈夫です。ほらこれ」
お水を示して香里は続ける。
「こんなに手の込んだ嘘はめったにありませんから」
「か、香里さん」
優はほっと息をついた。
オカルト好きというとたいていの人間は冗談と嘘にまみれた目を向けてくる。なのにどうだろう、優の瞳は正直だ。香里はいつの間にか、優に心を許していた。
「優さん」
「はい?」
「また、会ってくれますか?」
「えっ、あ」
唇をきゅっと噛む香里は愛らしい。優は初恋でもないのに甘酸っぱい想いが胸にあふれた。
「よ、よろこんで。こちらこそまた会いたい、です」
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