うちに招き猫がいます

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 オカルト好きというか、香里は特に占いが大好きな女性だった。  普通の男なら()をあげてしまうようなパワースポット巡りでも優はニコニコして付き合い、東がいいと香里が言えば東に店をとり、南がいいと言えば南に観光地を探す。結婚したいと言えば入籍日も式場選びも全て香里の占い通りに決めていった。  さらに香里は第一印象の通り、厳格な父親を持つ家庭のお嬢様だ。初めて結婚の挨拶に訪れた際、優は昭和メロドラマのごとく「娘はやらん!」と引っ叩かれたが、持ち前の優しさと男らしさで今はすっかり香里の父親と打ち解けている。 「んあ、ここにあったのか」  結婚式を終え、優が引っ越しの準備をしていると客用の座布団に挟んだままのおちょこが出てきた。  香里に出会って今日まで二年、以来招き猫は一度も出てこない。  ――香里と会わせてくれたのだろうか。だとしたらもう出てきてくれないのかな。  涼しい風の中、死に損ねたヒグラシの短い鳴き声を聞きながら優は考えた。考えたけど、捨てることはできず新居へ運ぶ箱におちょこを入れた。 *
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