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家の前には母さんの車と見慣れない車があった、中に入ると、手錠をした母さん。すぐにドアが閉められた、尚には見えなかったと思う。俺たちは二階の自分の部屋へと押されるように入った。
千晶姉ちゃんは俺に制服と三日分の着替えをカバンに入れろと言い、尚の部屋に入っていった。
ドアのそばには、さっきの男が立っていて俺たちを監視しているように見えた。
「できたよ」
「ちょっと待っててね、こっちもできるから」
下から駆け上がってくる人が何かを話していた。
「迎えが来ました、連行します」
男は下へと降りて行った。
「連行って?」
尚が聞く。
「お母さん、悪いことをしたのだから警察に連れていかれるの」
そういうと尚は走り出した。
「尚、行くな!」
俺も姉ちゃんも追いかけていた。
「お母さん!」
母さんは黙って下を見ていた。
裸足で外へ出ていた。
尚がもう一度叫んだ。
母さんは俺たちのほうを見て、ごめんねとだけ言って車に乗り込んだ。
車が走り出そうとする後を今にも追いかけていきそうな尚をしっかりと引き留めた。
姉ちゃんにすがる尚、俺も姉ちゃんに抱き着いた。
涙が自然にこぼれた。
泣いてもどうしようもないのはわかっている、でも、上を向いても流れでた。
訳の分からない涙だった。
誰かが門を閉めた。外を見ると知らないおじさんが門を閉めていた。
後から知った、彼が千晶姉ちゃんの恋人だったことを。
電話がひっきりなしになり始め、電話線を抜いた。千晶姉ちゃんは何かを探し出しそれをカバンに入れた。鍵をかけ、カーテンを閉めて回った。
俺はそれをぼーっと見ていることしかできなかった。
スマホが鳴った。それに出る姉ちゃん。
「鞄もって、ばあちゃんちに行くよ」
杉スタッフサービスと大きく書かれた車が到着した。
姉ちゃんはひっきりなしに電話で話している。
「うん、今から出る」
電話を握りしめ、俺たちにカバンを持つように言うとこういった。
「外に一杯人がいるから車に乗り込んだら下を向いてな。いいね」
と言うと俺たちの頭に、会社の帽子をかぶせた。
「さあ、行くわよ!」
大きく息を吸い込むと扉を開けた。
すごいフラッシュと人の声、姉ちゃんは尚にそれが聞こえないように耳元に手をやり、押し出すように車の中に俺たちを入れた、俺たちが乗り込むとばさりとバスタオルがかけられた。姉ちゃんは扉を閉めると、遅れて助手席に乗り込んだ。
短い時間だったと思う、でも俺にはそれがものすごい時間に感じた。
バスタオルをかぶっていても光るフラッシュ。
早くいって!と怒鳴る声と、男の人たちのものすごい声に、俺の下になっている弟の耳をふさいで抱きしめた。
「忘れ物は?」
「ない、いこう!」
静かに車が動き出した。ある程度のところでバスタオルがするりと取られた。
「もう安心だ、帽子とっていいぞ」
よく見てなかった、尚の隣には、シンちゃんが座っていた。杉で働いている人で、良く、姉ちゃんと一緒に来たことがある人だった。運転席にはろくちゃんがいた。彼もそう、よく来る人だった。
何も言えないでいた、ただ窓の外を見ることしかできないでいた。
前の席ではひっきりなしにかかってくる電話で話す姉ちゃん。俺たちはその声を聴いていることしかできなかった。
「兄ちゃん」
「ん?」
「これからどうなるのかな?」
真っ赤な目にはまだ涙が残っていて、震える言葉は恐怖でしかない。
俺は何も言えないでいた。ただ隣の弟の手をぎゅっとつかむことしかできないでいた。
「これからのことはこれからだ、お前たちは何も心配しなくていい」
前を見ながら言うシンちゃんがこっちを向いてにっと笑った。
俺たちにも笑っていろという、沈んだって始まらねえだろう、笑えるなら笑っておけと言われた。でもそう簡単に笑えない。
親は犯罪者だ。
犯罪者の子供、どうなるんだろう?
車はS市に入った、大きな道から外れると古い住宅街のほうへと車は入っていく。
大きな商店街のアーケードが見えるとその前で車が止まった。
車から降りる人たち。
「ついたぞ、降りろ」
俺たちが下りたところには、古い大きな看板で、便利屋と書かれた文字が黒々と光っているのが目に入った。
カラカラと音を立てて扉があくと男の子が飛び出してきた。
「やりー、イケメンだ、チョーうれしい、祐兄ちゃん?こっちは尚兄ちゃん?」
俺たちの手を握ってぶんぶんと振り回す
「俺、弘一、小二よろしく!」
「よ、よろしく」
入ってと手を引っ張られた。そこには女の子が二人。
「キャー、イケメン、姉ちゃん、かっこいいね」
小さい子がそういった。
「初めまして、私、絵美、こっちは真尋よろしくね」
なんか圧倒されて、尚もたじたじで、するとものすごいでかい男の人が奥から出て来た。
「父ちゃん」
そうかこの人が
「初めまして、祐です、尚、挨拶して」
尚も隣で頭を下げた。
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