スクープ1 兄弟 

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叔父さんは俺たちの前に来るとしゃがんで尚と俺の手を取った。 「いいか、最初に行っておく、お前たちの親は大変なことをしてしまった、それはお前たちに関係ないことだと世間は認めてくれるまでには時間がかかる、でもな、それを乗り越えていかなきゃいけない、俺たちがお前たちを守るから、つらくなったら何でも言ってくれ」 「俺たちも相談に乗るから」 という弘一君にうるさい、と一喝した大きな女の子。 「私たちじゃ何もできないかもしれないけどつらくなったら話して、これからは兄弟になるんだから」 「お姉ちゃん、兄弟になるの」 「そう、祐兄ちゃんと尚兄ちゃんだね、私は中一、尚ちゃんは下になるんだね、私も祐兄ちゃんて呼んでいいかな?」 俺はうなずくことしかできなかった。 千晶姉ちゃんからは話はいろいろ聞いていたし、写メで見た人たちばかりだから初めてのような気はしなかった、でも急に妹や弟ができたのには面食らった。 「じゃあと頼んだぞ」 「落ち着いたら裏に行くね」 叔父さんが出ていく、周りを見ると、親父の事務所のような感じがした。 「部屋に案内するわ」 「あの、荷物」 もう持って行ったよという真尋ちゃんたちに背中をおされ中に入った。 長ーい廊下、入ってすぐのところここがキッチン、先に二階に行こうといわれ、向かいにある階段を上った。 「ごめんね、部屋弘一と一緒なの」 「客がいっぱい来るから部屋開けとかないといけなくてさ、狭いけど我慢してくれ、ここだよ」 部屋に入るときれいな部屋、俺よりきれいだなというのが最初の印象だった。 大きな梯子がかかっていてカーテンが揺らいでいる。 そのカーテンを絵美ちゃんが開けた。 「また、片付けないと捨てるからね!」 「うっせー!ここは俺の城だ、何してもいいんだ!」 壁一面に張られたポスターに布団の上にはおもちゃや漫画本がいっぱい、おんなじだ、尚の声、俺は初めてその日笑ったような気がした。 梯子を上る弘一君が上から顔を出した。 「来て!」 尚を先に上らせた。そして俺も登った。 「兄ちゃん、基地だ!」 「すげーだろ」 俺たちにはちょっと天井の低いロフトスペース、でも弘一君は立ってもまだ余裕がある。 「ここは立てる」 「そこ窓開くよ、俺は届かないけど」 天窓がある、夜はいいかも。 「弘一、ロープ降ろして」 下から声がした。弘一君は、手すりというか、ちょっとした策の端っこにあるロープをほどいて、その上にある物から何かを引っ張りロープの端にひっかけて下に投げおろした。 滑車かな? 「おろすとき声かけろ!」 「わりー、いたのか?」 俺たちは下をのぞいた、それに何か縛り付けている。 「あげるわよ!」 「おう」 ガラガラと音がすると、大きなものがしたから上がってきた。 「手伝って」 俺たちはそれを下した。布団が運ばれてきた。それを何度か繰り返した。 「ラスト」 「へい、へい」 最後の荷物が上がると、ロープを取って、端っこに丸めておいた。 「ここに二人寝てくれる?」 「ありがとう、あのかばんは?」 それはあそこと下を指さすと真尋ちゃんが扉を開けた、そこにはもう俺の制服と尚のジャケットがかけてあった。 窓を開けてくれと言われ開けると暖かい空気が下から流れて来た。 「熱い」 「今だけな、あ、でもここはエアコンないけど快適だぜ」 そういうと弘一君は布団をたたみなおして端に寄せた、俺たちも手伝った。 「なあ、スマホ持ってる?」 持っている、番号とメルアド、ラインをできるようにしたいから降りるとき持ってきてといわれた。 梯子を下りると隣の部屋へ、こっちは絵美ちゃんと真尋ちゃんの部屋。全員で、スマホの入力。 「すごいね、部屋きれいだね」 尚が言う、確かに、それぞれのベッドの空間だけが自分の世界のよう。 「うちはね、便利屋っていう仕事でしょ、だからかな、いろんな人が出入りするの」 女の子らしい、小さなテーブルに、コップが並び、真尋ちゃんがそれにジュースを注ぎ始め、弘一君が座れとハート形のクッションを進めてくれた。 「DVって知ってる?男から逃げて来た女の人かくまったりするんだぜ」 「今日みたいにいっぱい人がきたりしたりするときも誰が泊まりに来るかわからないから開けとくんだ、千晶ちゃんがほとんどだけどね」 こっちの部屋は二段ベッドと勉強机が二つあるだけでロフトはない。 このひとつ奥は親の部屋で、一番奥はじいちゃんたちの部屋だそうだ、階段を上ってすぐのところにトイレや洗面所がある、その隣二つの部屋はお客さん用。 「疲れてない?」 真尋ちゃんが聞いてきた。 「へいき」 尚が言う。急に現実に戻された感じ、母さんが捕まったのを忘れていた。なんか圧倒されてそれどころじゃなかった。 絵美ちゃんは、洗濯物を片付けたら出かけるからそれまで待っててという、弘一がジュースをもって自分の部屋に行こうという。 ベッドの下を引っ張り出した。どうだといわんばかりに、俺たちに言う。 「スゲーだろ、これ、全部タダ」 「タダ?」 買ってきたものはないという。そこには漫画本がびっしり入っていた。 「好きなだけ読んでいいからな」 「いいの?」 俺がいなくても勝手にみていいと弘一君は言った。 尚は二冊、手に取った、俺も一冊手にすると、彼はそこから五冊ぐらい出してベッドにほおりこむとそれをひっこめた。ベッドに入り横になって読み始めた。 「適当に座りなよ、それともここに寝る?」 尚は俺のほうを見た。 「好きにしなよ」 尚は弘一君が開けてくれたスペースに横になり本を読み始めた、俺は彼の勉強机の椅子を引っ張り出して座った。 目の前を行ったり来たりする、絵美ちゃんと真尋ちゃん、ベランダなのかな、そこからのぞいた。 「横の窓から出入りできるよ」 弘一君の声に、手を伸ばしてすぐわきのちょっと大きな窓を開けた。するとそこから顔を出す真尋ちゃん。 「弘一、洗濯物置くからね」 「サンキュー」 「すごい数だね」 「洗濯物?汚れものが多いからね」 お日様が当たってあったかい、布団を干してあったのかそれを中に入れる二人。 「手伝おうか?」 「ありがとう、それじゃあ、この布団、隣に入れてくれる?」 お客さん用の部屋に入れてくれという、中に入ると、隣の部屋と同じつくり。 「はい、そこに畳んでおいてくれる?弘一手伝え」 「えーそれ俺の領分じゃねーし」 「じゃあ俺が手伝うよ」 「しゃーねーな」 尚と弘一君も来てどんどん布団が積まれ、ロフトに上がりさっきと同じことをした。 「さすがね、見ただけで覚えちゃった」 「でもむつかしいね、バランスが取れないからうえで落ちちゃった」 ロープを片付けると、トイレに行って来いと弘一に言われた。 「広いね」 「学校みたいだな」 人が大勢出入りをする家は、トイレも広くて便器も多かった。 どんだけ、人の出入りがあるんだろう。
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