スクープ1 兄弟 

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スクープ1 兄弟 

ここはどこだろう? 真っ白な扉に囲まれた部屋、隣には弟が寝ている。 さむっ。 ハンガーにかかったジャンパーを着て、外から聞こえるラジオ体操に誘われるようにその音を追った。 開けても、開けても同じような扉ばかり。 扉じゃない、ふすまって言ってたな。 一、二、三、四 元気のいい声が聞こえる。 やっと障子になり、窓ガラスから外が・・・見えた。 「おはよう、お前もやるか?」 杉のじいちゃんが体操をしていた。 そこにサンダルがある、指さしたところを見る。障子を開けると縁側、冷たそうな板、靴下は履いてきたとはいえ一歩出すのに躊躇する。 がんばって出て下をのぞくと、そこには色とりどりのサンダルがあった。 適当な大きさのを履いて、じいちゃんの横で体操をした。 俺と並んでもそんなに変わらない身長、俺のほうが大きいかな。 音楽が終わりそう、深呼吸をしているとどんと体に何かがぶつかってきた。 「祐兄ちゃんおは!」 「寒い寒い、おはよう、じいちゃんもよくやるな」 抱きついた子は女の子、俺を下から見上げている。そのわきを行く男の子。 「真尋ちゃん、おはよう」 嬉しそうに離れると、よじ登るようにして縁側でサンダルを蹴飛ばして中に入っていく。 「さて、めしじゃ」 じいちゃんも中に入っていった。 俺はそこから見まわした。広い庭の隅には、この寒さの中、きれいに手入れされた木々や花が凛と咲いている。 そして古い大きな平屋の家はどっしりとした風格があった。 「俺、ここの子になったんだ」 飯だぞー。 はーい! 親父と母さんが捕まった。 千晶姉ちゃんのお母さんを殺したことを後で知った。 そして親父はもう一人殺していた。 あの日俺たちは冬休みで、暮れの準備でせわしない大人たちの様子をテレビで見ていた。 そろそろお昼、何を食べようか。母さんは仕事…都合のいい仕事で外に出ている。 親父とはまだ離婚していない、早くすればいいものを、でもまあこうして大きい家にも住めるのはありがたい。親父はマンションに一人でいる、まあ女を入れているのは知ってるから、だから母さんも好きにしてる。 「兄ちゃんラーメンある?」 買い置きを探すが何もない、冷蔵庫もこの頃空が多い。 「千晶姉ちゃん来ないかな」 「今日あたり来るんじゃね、餅もって」 千晶姉ちゃんは母親が違う、でも俺たちのことを心配して、毎週、母さんがいないとき食べ物を補充してくれている。それを当たり前だと思っていた。親父の秘書と結婚するもんだと勝手に思っていた。 固定電話が鳴った。 「もしもし」 「祐?今、お母さんいる?」 それは千晶姉ちゃんからだった。 「仕事―」 尚はいるかと聞かれた。 「いるよ」 すると姉ちゃんは、今からスマホとお金を持っていつも連れて行ってもらうファミレスに行くように言われた。なんかおかしなことを言われた。 「いい、誰に何を言われても口を開かないで、お母さんと出会ったら走ってでもそこに来ていい、早く、すぐに家を出て!」 ガチャリと電話が切れた。 「尚、すぐ外に出るぞ」 「えー、寒いよ」 早くしろと言い、俺は言われたようにファミレスに向かった。 姉ちゃんからライン。 尚の携帯電話の電源を切ること、そして俺は携帯電話に出ないこと、ラインでやり取りをするのは私だけいいと書かれていた。 「なんだよこれ」 俺は立ち止まってそれを見た。 「どうしたの?」 「わかんね」 尚に携帯の電源を切るように言い。俺たちは早歩きで向かっていた。 それからすぐ母さんから電話。 「でないの?」 「うん、しかとだよ」 鳴りやむと、親父から? 「うぜー」 そしてファミレスに入って飯を食べた。 「はあ、はあ、遅くなった、ごめん、食べた?」 「食い終わった」 「ねえ、どうしたの?」 千晶の目は泣いていたのか、腫れていた。電話はきたか聞かれ、二人と親父の事務員から電話が来たのを話した。 「いい、落ち着いて聞いて、もう少ししたら警察が来る」 警察? 「おやじなんかしたのか?」 姉ちゃんは下を向きながら話してくれた。尚は泣き出してしまい、姉ちゃんは尚を抱きしめてくれた。 俺は真っ白になった頭を何かで殴られたような気がした。 人殺しかよ、何やってんだよ!大声を出したかった。でもここで出したところで人の目を急に感じた。 俺の手をぎゅっと握りしめた姉ちゃん。 「あんたたちは私が守る、いい、何を聞かれても黙ってな、わかった?」 そして、そこに男がやってきた。 「杉本千晶さんですね」 「はい」 警察手帳を見せてくれた。 畑山さんの息子さんだねと言われたが返事をしなかった。 千晶姉ちゃんがなにか話しているけど、耳に入らなかった。 「ではまいりましょうか」 家にいったん帰りましょうと姉ちゃんと家に向かった。 パトカーの中、尚は俺の手をぎゅっと握ったまま、涙目で、手を離した時手のひらにはしっかりとあいつの爪が食い込んだ後がついて、じりじりと痛かったのを覚えている。
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