27.堂道課長は出世できない

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「女の子連れてきたよー」  糸を連れて登場した羽切に、「アウトー、それセクハラ発言ですから」と赤い顔をした星野が派手に非難した。かなりご機嫌な様子だ。 「お邪魔します。営業一課の玉響です」  堂道は「お疲れぇ」とぶっきらぼうに言ったきり、糸にも素知らぬ顔だ。  堂道と星野がすでに四人掛けのテーブルに向かい合っていて、それぞれの隣の空席が一つずつある。  羽切が星野の隣に席を取ったので、糸は必然的に堂道の隣に座ることになった。  今をときめく星野と同席するのは少し緊張した。  昼間、遠目に見ただけでも、人から好かれる明るさを持っているのがうかがえたが、酒が入ってより朗らかになっているようだ。 「泥臭い仕事が懐かしいっすよー」 「泥臭い仕事……ですか?」  三人の話題がだんだん勢いを失ってきて、昔の思い出話が繰り返されるようになってきたので、糸はようやく首を傾げる。  近況の仕事の話には出しゃばってはいけないと思い、それまでは相槌を打つだけにとどめていた。 「そうそう、根性見せてみぃ! って言われてまさに根性見せる感じの。東京から九州までトラックぶっ飛ばしたり。雪ん中、仕事もらえるまで外で待ったり」  星野が得意気に武勇伝を語って聞かせる。 「それ、ネタじゃなくてホントにですか?」 「マジマジ。四課にこいつらがいた当時はアウトローで有名だったんだよ。そんなんばっかやって仕事取って来て。もはや交渉じゃなくて懇願みたいなやつなー」  羽切が星野の肩を何度もたたいた。 「さすがに俺も最近はそんなんやってねえよ?」 「堂道さんと漁船乗ったこともありましたよねー」 「漁船ですか!?」  糸は思わずビールをむせた。 「堂道さんってば、本物の漁師かと思うくらいめちゃ働きよくって。漁師にスカウトされて」 「逆にコイツ、ずっとゲロってて。マジ役立たず」 「だって、俺、昔から乗り物酔いするタイプでー」 「夏至さん、超器用で何でもできちゃうんですよね」 「堂道の場合は、器用貧乏とも言うけどなー」 「あれって、水族館でしたっけ?」 「ああ、アシカの飼育員なー。あれはマジで転職考えたわー」  堂道の口調はいつもと変わらない。  それでもいつもより笑っている。  
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