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『今日飲んで帰る』
『私は少し残業になりそうです』
糸は小さくため息をついて返信する。
堂道と、平日の夜に会うことはなかなか叶わず、もちろん、糸の家にもまだ招待できていない。
今日は残業することになったのだから、時間があえば一緒に帰れるかもしれないと思った日に限って堂道の方が早く帰るとは。
すれ違いを嘆くほど何週間も会えていないわけでもないし、飲みの席を咎めるほど子供でもない。
堂道が帰った後の空の席を見て、少し残念に思うだけだ。
「玉響さん、もう終わりそう?」
そろそろ上がろうかと思ったところで、羽切に声をかけられる。
「飲みに行かない? 堂道と星野が近くで飲んでるから」
「え? あ、そうなんですか。堂道課長と星野さんが……っていうか、私が行っていいんですか?」
「もちろんだよー」
一応、堂道にメッセージを入れておく。
今から羽切と一緒にそちらに合流すると伝えてると『わかった』と返事が来た。社外秘ならぬ社内秘交際中の身ではあるも、『来るな』ではないようだ。
「堂道課長と星野さんって二人で飲みに行くような仲なんですか……?」
おずおず羽切にたずねると、「ああ、仲悪いって噂かー」と苦笑した。
もし二人に因縁のようなものがあるのだとすれば、あらかじめ情報は入れておきたい。もとより敵の多い堂道だ。人間関係の摩擦が他の人の比ではないのは納得できる。
「堂道は噂もデマも否定しないし、野放しだからな」
「昔、なんかあったんですか」
「ないない。心配してたんだ?」
糸は頷いた。羽切の言葉にホッとしていた。
「むしろ、星野が海外行けたのは堂道のおかげだよ」
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