もう遅い、ひひいん速い

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 リンドーコ帝国の皇后が暗殺された。 「毒婦、芭浜玉(ば ひんぎょく)! 皇后陛下暗殺の容疑で逮捕する! これが逮捕状だッ!!」  事件発覚からほんの一刻、前触れもなく部屋に押し入った警官隊に取り押さえられたのは、帝国の第三夫人である浜玉だった。 「え、ええっ、何事ですの!? ちょっまっ……んぐぐっ」  釈明の機会もないまま口枷を嵌められ、一言も発せないまま裁判にかけられ、皇籍剥奪、財産没収、国外追放が言い渡される。  あれよあれよと話が進み、浜玉は妃の衣を剥がれて襤褸を着せられ、帝都の門外に蹴り出された。 「んぐっ!?」 「ほれ、これがお前の全財産だッ」  帝国の財産没収刑では、受刑者がその財産の内、望んだものを一つだけ残すことに決まっている。浜玉が選んだのは、実家から連れてきた愛馬ミロード号だった。  浜玉をここまで連れてきた役人はそう言って、引き連れていた馬の手綱を放り投げ、そのまま立ち去る。  手綱を放されたミロード号はそのまま逃げるでもなく、浜玉の隣に立ち止まる。  浜玉は立ち上がってミロード号の首を撫で、それから思い出したように、自分の口枷を外した。  ここまでずっと口枷を嵌めたままだったのだ。  垂れ流しになっていた涎を手首で拭い……首を傾げる。 「こ、これは、一体、どういうこと、ですの?」  身に覚えのない罪で皇嬪から住所不定無職に転落した浜玉は、未だに困惑から抜け出せずにいた。
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