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ボールペンが床に叩きつけられる音が、大学ホールに響いた。
竹之内健は、落としたボールペンを拾おうとする。
が、別の手が伸びてきた。
「はい」
佐伯雅は、ボールペンの落下音に、瞬時に反応して拾った。
「ああ」
それだけ言って、健は再び黒板へと注目した。
「この人めっちゃ感じ悪いんだけど。せっかく拾ってあげたのに、お礼もない」
隣に座っている藤堂真希に、己の良心が無下にされたことに対する愚痴を漏らした。
「まあまあ、みやび、何か下心でも丸出しだったんじゃない?」
「ちょっとやめてよ。絶対あり得ないから」
しかし、2ヶ月前に彼氏ができた真希とは違って、雅はもうそろそろ1年が経とうとしている。
「何だかなあ」
初対面の人間に嫌な顔をされ、忘れようとしていたことも思い出した。
最悪。というのは今の感情からか、真希に隠し事をしてこそこそしているからか・・・・・・
退屈な講義も終わり、健は立ち上がった。
斜め後ろの席の真希は、自然と健の姿を追っていた。
「あの、落としましたけ、ど」
健のキーケースから何か落ちたので、真希は反射的にそれを拾った。
それを拾ったとき、少し濡れている感覚があり気味が悪くなった。
「ああ・・・・・・ありがとう」
間を開けてお礼をする健に、恐怖に似た何かを感じた。
目は焦点があまり合っていないし、頬には汗が伝っていた。
大学なんて、何千人と人が集まるのだから、こういう人もいる、と飲み込むことにした。
「みやび、みやび」
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