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「壊死してますね」
これが医者からの最初の一言。
「一刻を争います。辛いでしょうが、指を切断するほかにありません」
そんな。来月はピアノの全国コンクールも控えているのに。
と、言う余裕など元よりなく、痛みと恐怖から目を閉じて、歯を噛み締めていた。
滞りなく、真希の指の切断は施術され、騒ぎはとりあえずは収まった。
包帯で覆われた右手をぶらんとさせて、真希はベッドの上で天井を見上げた。
その目から、涙が一筋光った。
「藤堂さんの右手の指から、フッ酸が検出されました」
「フッ酸?」
雅は真希の手を握りながら、医師の顔をみた。
「一般的には、工業的に金属の洗浄などに用いられることが多いのですが。人間の皮膚に付くと、猛烈に皮膚を侵食し、骨をも溶かします。放っておくと、死に至るケースもあります」
その言葉を聞いてか、真希のしゃっくりが大きくなった。
「フッ酸は気化する性質もあって、呼吸器系にダメージを与えることもありますから本当に恐ろしい薬品です」
医師は静かに首を振りながら話した。
「失礼ですがお二人は、大学生ですか?」
「はい」
「何か薬品を扱う学部におられますか?」
「いいえ・・・・・・」
恐る恐る医師の質問に、雅が受け答えた。
医師は顎に手をやり、深く考え込んだ。
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