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目覚めは、すっきりしたものだった。
薄っすら目覚めれば、目の前には真島真司の寝顔があるからだ。
雅の小さな手が、彼の頼もしい胸板に置かれていた。
女のように柔らかく、吸い付く肌だった。
真司を起こさないように、雅は軽く唇を当てた。
「ぬぇむてぇ。むぇ、飯は?」
欠伸を噛み殺し損ね、真司が起床した。
台所には寝癖をつけたまま、台所に立つ雅の姿があった。
ご機嫌な朝だった。
「今できるから」
雅は笑顔で振り向いた。
「あ、そう言えば聞いて、この間ね変なやつにあったの」
食事中、思い出したかのように雅は切り出した。
「大学ホールで講義あったんだけど、前の席の男子がボールペン落したのね。あたしがそれ拾ってあげたんだけど、そしたらそいつ、あたしにお礼も言わずに受け取ったの。ありえなくない?」
「んー。そうだな」
真司はまるで興味が無さそうだった。
雅の顔を見向きもしないで、スマートフォンを弄っている。
ちょっと聞いてるの、ちゃんとこっち見て話聞いてよ。
そう言いたい。
だがそういう立場でもないし、関係でもない。
雅は力弱く微笑んだ。
「ごちそうさん。じゃあ帰るわ」
「次は、次はいつ会える?」
「んー。まあまた今度」
濁すだけ濁して真司は去っていった。
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