知らぬ仏より馴染みの鬼、并政篇、第一話(第二節)

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知らぬ仏より馴染みの鬼 第1話、『仁義対怨嗟』 ◇その二、漫談って話の内容よりも語り部の技量な気がしますよね ○門倉優子は諦めない 74c81e96-2b42-4209-9a4c-dd093b17044b  私は、未だにこの状況が呑み込めずにいた。  つまり迷っていた。  何となく、それっぽい言葉を紡ぎながら、打開策を練っていた。  今はその混乱を、『私には何もないのだと』悟られることが何よりも怖かった。  しかし私は諦めない。  諦めの悪いことこそが最善だと今は信じよう。 ○  古い話です。  かつてここは、病院だったのです。  敷地の広さからも分かるように、とても大きく立派な病院だったそうです。  何故寂れた田舎にわざわざ建てられたのかは不思議ですが、病院の経営者がこの町の出身だったそうですから。  もしかすると、生まれ故郷への恩返しだったのかもしれません。  今から二十年ほど前、この病院が町にとって生活の一部となったころです。  この病院内で、大事件が起こりました。  ええ、事故ではなく事件です。とても悲惨なものだったと聞きます。  事件発生当初、住民の話では複数の不審者が日本刀のような刃物を院内で振り回し病院の関係者、患者の区別なく襲い掛かかりました。  その不審者達は多くの死傷者を出した後、その場を離れるでもなく院内に立て籠もりました。  その後も、病院を包囲する警察相手に大立ち回りを演じ、終いには全員その場で自害したそうです。  不可解な事は、その不審者達は手始めに数人の無差別殺人を行った後、警察が到着するまでに十分逃走の時間があったにもかかわらずその場に留まったこと。  また、始めの凶行以降は院内の誰も傷つけなかったこと。  そして、犯行声明の類はなく政治的、反社会的、思想犯の類とは言い難い。  壁越しではあるも、警察官からの問いかけに対しても理路整然と答えていたことから精神錯乱者の様子もなかったのです。    一見すると暴力に飢えた輩の暴走行為か、強盗目的で侵入した事件に思えます。  ですがどうもしっくりきません。当時の事件関係者達も同じ気持ちでいたでしょうが、その真相が明かされることはありませんでした。    何とも後味の悪い出来事です。とはいえ、事件は終わりました。  時が経つにつれ、事件の記憶は風化していきます。    その後まもなく病院は閉鎖されました。  土地は売りに出され、その跡地にはホテルが建てられました。  オープン直後は、観光客の呼び込みにも成功しそれなりに繁盛しました。    しかし、それは長くは続きませんでした。    「わかった。呪われてたんだ」  「え?やだ、アタシら呪われちゃうじゃん!いやん、助けてツッチー」  「あんたは呪われてとっとと死ね」    その通りですよ。・・・続けても?(どうぞどうぞ)    では、お許しも頂けたので、    ――人が大勢亡くなりました。  年に六人から、多い年で十人以上です。  行方不明者を含むとその倍です。    犠牲者のほぼ全員がホテルに関わった人達でした。  ホテルとの確認が取れない人達も、いなくなった後では事情聴取が取れなかった故の情報不足であり、・・・無関係を示すわけではありません。    いずれも事故や病気が原因であり、ホテル側の過失はまったくありませんでした。    何故か?    犠牲者全員がホテルの敷地外で亡くなられたからです。  故に、ホテル側も町の住民も事態の異常さにすぐ気付くことはなかったのです。    しかし、こうも立て続けに不幸があれば誰かが声を上げます。  いくらホテル側に過失が認められないとはいえ、それですむわけもなく、悪い噂は直ぐに広がりました。  無秩序な悪意と好奇心を添えて。  それらは、実害を伴って当事者達へ、そしてこの町へと襲い掛かりました。    この噂が広がるにつれ、むしろ客足は増えました。  一時的にはですが。    それがまずかったんです。  誰もがどこかで思っていました。気のせいだと。  噂は噂だと。    しかし、かれらは思い知らされました。    増えたのです。  勿論、犠牲者の数が。  奇しくも、サンプルが増えたことでその、呪いの法則が少しずつ詳らかになりました。  その辺り当時の関係者達は一様に口を閉ざしていますが、察するに何かしらの割合に応じた数だったようです。    これは私見ですが、例えば、何かしらの祈りに応じた生贄の数だったのでは。    つまり、――    「――つまり、ここは、本当に、呪われていて。そこに何も知らない僕らは不用意に侵入しているってわけね」  「・・・うん。中々、面白いよ?肝試しとしてはだけどね」  「で、それが君の命乞いなわけ?」  「その呪いの、『法則』が、――。『割合』が、――。あ~、・・・」  「・・・まさか、自分だけはその本当にある呪いの法則を解き明かした上で、その対処法も知っているとか」    「・・・そんな冗談言い出さないよねぇ?」    「まだ話は続きますが、まあ――話をまとめるとそんな感じです」  「流石ですね、山中君。賢い人は好きですよ」    「僕はその辺は適材適所かなぁ。」    「あのね」    「改めて、はっきりと言うけど」    「僕達は門倉さん一人に、全ての罪を被せて死んでほしいの」  「いい加減サツの動きがヤバめなのよ。僕はどっちでもいいんだけど」  「みんなパクられるより、門倉さん一人が犠牲になる方がいいじゃん」  「でも、僕もやりたくてやってるわけじゃないんだよ」  「だからもし、もっと賢いやり方があるのなら、方針を改めることもあるんじゃないかなと助け船を出しているわけ」    それを、呪いがどうのこうのと、『私はノープランです』と言っているも同じじゃないか。  そうじゃないだろ、お前は。まだ切ってない手札は山とあるじゃないか。  勿論、殺すさ。  あゝ死んでもらうとも。  だけどさ、なんかこう――あんだろ?    ひょっとしたら、僕達じゃ考えつかないような面白いものを、この状況下でも見せてくれるんじゃないか?    僕はそれが楽しみで。  そして恐ろしくもあり。  その上でおまえを踏みにじれると確信出来る今が嬉しいんだ。    「・・・まあ、そうでしょうね」  これが、ドッキリだと言ってほしかった。やっぱりガチだったと泣きたくなるも、その気持ちをグッと堪えた。    「まあ、『今のところ』、呪いに関しては隠喩だと思っていてください。本題がここからです。――ところで山中君、本題に入る前に状態を起こしてもいいですか?」  「いつまでも地べたに這うのは惨めですし話しにくいです。具体的には、見上げる首がつりそうです」    「いいよ。優希、起こしてやりなよ」    「うえ、この泥だらけに触んの。・・・はいよ」    「ありがとうございます。土屋さん」  「ついでに眼鏡もかけてくれませんか?そこに転がっているソレです。伊達ですが、かけてないと調子がでないんですよ」  心配しなくても秘密兵器じゃありませんから。    「・・・あんた、マイペースだよね――ほいよ」    投げつけられた。  偶然、装着された。(――チッ、まじかよ)  「今夜の私はついてますね」    ここに、この廃材に腰かけますね。  部屋の隅なら皆さんと向き合えますので。  では、話を続けます。    一時期、犠牲者も出ていましたが、ホテルが閉館して以降はこれといった不幸も起きていません。  人の噂も長くは続きません。  なにせこの場所以外では、何も起きないですから。    この町は恵まれています。  バブル崩壊でホテルブームが去りましたが、それでも尚、この町は観光地として潤いました。  都心から近いこともあり、日帰りで立ち寄れますから。  かつては心霊ブームとして極上のスリルを。  今は、パワースポットと名を変えて当時の流れは続いています。    その辺りは皆さんも『私達の仕事柄』詳しいですし割愛します。    経緯はどうあれこの町は、約二十年の長期にわたり客寄せの実績を積みました。  件のホテル騒動以降、町全体の宿泊施設は減りました。  そのため宿泊客はそれほど多くはありませんが、昼に限れば日帰りのよそ者が町の住民より多いのです。    つまり、出会いの場が出来上がっているんです。  それも他の観光地と違い、日帰りのよそ者が多い。  『後腐れの起きにくい出会いの場』という特異性付きで。    まだ、町の観光委員会の連中はその傾向に気付いていません。  まあ、いずれはそのことに気付き、婚活ブームなどにあやかろうとするでしょうが。    実状は、すでに私達のナワバリであり、すでに食い散らかした後ですが。  『私達の商売』もよそ者を対象にする限り、あまり目立ちませんでした。――これまでは。    少し、日本の警察を甘く見ていました。  どこで嗅ぎつけられたのか『私達の商売』に勘付いたようです。  幸いにも、まだ私達の素性にまでは辿り着いていないようですが、今が予断を許さないのは確かです。  私達が学生であることはばれているでしょうね。――勘ですけど。    さて、これから核心に触れる前に念のため確認します。  私は数日前、下校途中にいきなり拉致されましたのでそこからの山中君達の動向については予想するしかありませんでした。  確認です。    山中君は、私を『社長』に仕立て上げましたよね。  すでに証拠は整えた上で分かり易く置いてある筈。  状況の全てが、私だけに都合が悪くなっている。  その上で、渦中の私が永遠に雲隠れしてしまえばいいと考えている。  盤上を俯瞰してみれば詰んでいる。それを理解した上で、私に何も出来ないと理解した上で、自分が楽しむためにこの状況を用意した。    「・・・と、思い至りましたが合っていますか?」    大方、書記の私に隠し口座あたりがないかとあたりをつけて揺さぶりにきたのだろう。  こいつらにとって私はもう用済みなのだから。  処分する前に骨までしゃぶりつくそうというのだ。  ゲスめ。    「正解だよ門倉さん」    「昔から言うじゃん。・・・死人に口なしってさ」  「何か隠してるでしょ?お宝。あの世には必要ないんだろうしさ僕達に恵んでくれたっていいんじゃない?」  やっぱり駄目だったか。どうも詐術じゃ俺は勝てないらしい。取り付く島もない。  それでも俺の勝ちだけど。    悔しいだろう?門倉優子。  悔しいだろう?門倉優子。  お前が心の中でどれだけ俺達を見下そうと構わない。  これが、現実なんだから。    「お気持ちよく分かりました」  「では、私は奇跡に賭けるとします」  「私が生き残る奇跡に」    おまえらが破滅する奇跡に。    本当に嫌な奴ら。  プライドばかり一人前のクソガキどもばかり。  まあ、多少の時間稼ぎにはなりました。  当初の猶予は三十分とかぬかしていましたが、一時間は稼げたでしょうか。  今夜に限れば、時間にルーズな人は大好きです。  先程こっそり腕時計を確認した時の顔は実によかった。    欲を言えば、あと三時間、空が明けるまで粘りたかったのですが。  私と目が合った時の表情を思えば、多少の溜飲は下がるというものです。    ・・・その時、私の不用心なドヤ顔がいけなかったのでしょうが。  ・・・はぁ。  ・・・私の馬鹿。    ・・・だって仕方ないじゃん。――ねえ?    あゝやだやだ、誰でもいいから呪ってくれないかしら。
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