猫言語を話す猫型ロボット

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猫言語を話す猫型ロボット

あるところに、一体の二足歩行をする人間サイズの猫型ロボットがいた。 彼自身は己の事を「猫」だと信じ込んでいる様子だが、とある製作者はそんな彼を優しく見守る事にした。 彼に与えることができた感情と一つだけの[役割]、それがいつの日か用いられる時が来る事を切に願って…… 「にゃーお、にゃにゃ?(ごきげんようお嬢さん、今良いかな?)」 「…ニャー(…なによ)」 今この僕・[ホンヤもん]はこの白肌の所々に見える灰色模様が魅力的な、可愛い雌猫であるミアちゃんに一目惚れをした。 その為、なんとかお近づきしたいと考え現在アプローチをしている最中である。 だが、なかなかガードが硬いうえ警戒心が強いのか、若干怖いうなり声をあげて来る……とは言え、彼女とできる限り仲良くなってみせるぞ! (翻訳モード・オン!) 「いやー、その綺麗な色の毛並みがあまりにも魅力的だったから思わず見惚れちゃったんだ。良かったら僕と一緒にデート…ぎゃ〜〜‼︎」 もはや最後まで言うのさえ認めないと言わんばかりに、僕はミアちゃんの前足から繰り出される鋭い爪で引っ掻かれてしまった! 「お断りよ!ふん‼︎私は今夢中の雄猫がここをまた通って来るのを待ってるの。あんたなんか心底眼中にないんだから、とっとと消えて!」 僕は泣く泣くその場を後にした。 だが数歩進んだ頃にふと後ろを振り返ってみると、そこに現れたのはいかにもモテそうな艶のある黒い毛並みと、凛々しい顔立ちの野良猫・アッシュと呼ばれている雄猫が歩いていた。 恐らく最近野良猫になったばかりなのだろう… 他の猫達に囲まれっぱなしでやや戸惑いを隠せない様子を見せている。 気づけば、彼のすぐそばにはミアを含めた6匹程の雌猫達が一斉に群がり始めていた! 「はぁ〜……僕だって結構イケてる方だと思うんだけどなぁ?なにが他の猫と違うんだろう。」 ・見た目を含め、全てである… 「……」 僕が不思議そうに考えている間、アッシュが何かを伝えたそうにこちらを見てきた気がする。はてどうしたのだろうか? だけど僕、雄猫には興味ないんだよなぁ。 翌日、僕はまた他の雌猫にアタックしようと人間達の歩くペースに合わせ、流れに任せながら歩いていた。 そんな時、意外な存在が僕の前にいきなり姿を現した! 「や、やあ。猫のようで人間みたいな変なお兄さん!少し相談があるんだけど良いかな?」 「あれ?確か君は……アッシュって言うんだよね?僕になんの用かな」 猫のようで人間みたいな変な人とは失礼だな!こんなに背が高くて、同じ猫とも…そして僕と同じ身長の人間達とも等しく会話できるんだぞ? どこも変じゃないぞ! 「う、うん!実はボク飼い主さんの所に帰ろうとしてたんだ……でもてんで方向音痴なもんだから、昨日まで他の猫達に道を尋ねてたんだよ。 けれどどうしてか、雌猫達がボクの周りを囲みだして[案内してあげる]と言っておきながら、誰も通ってない狭い道に連れ込まれたのが怖かったので、反射的に逃げてきちゃったんだよ。」 「なんてもったいない‼︎うまくいけばハーレムじゃないか」 僕は、他人の目線から見ればまさしく下心しかない存在にしか映らなかったであろう言葉を、迷いなく口に出した。 「そんな…ボクは一匹の雌猫と結ばれればそれだけで満足さ。それにやっぱり、ボクは飼い主さんにずっと愛されてきたんだしちゃんと無事に帰って安心させてあげなきゃ!」 「見た目以上に中身がイケメンだな君は!はぁ…分かったよ。僕でも力になるというのなら協力はするから、この肩に乗ってくれるかい?」 「あ、ああ!本当にありがとう‼︎えっとそれで、君の名前は?」 「ホンヤもんだ。よろしくアッシュ」 「よろしくね!ホンヤもん。」 僕はその日から一週間近く、アッシュを肩に乗せたまま彼の飼い主[猫芽(ねこめ)ミサエ]と言うおばあさんが住んでいる家を探して回った。 時々理想の雌猫に関しての話題で些細なケンカもするけれど、その度に仲直りを繰り返す。 諦めずに色んな人間に僕は彼の飼い主の名前を尋ねたり、交番に足を運んだりの毎日だった。 その甲斐あってか、ついにアッシュの暮らしていた家にたどり着いてみるとそこにはお葬式後なのか、黒い服に身を包んでいる人間達が悲しげな表情で列になり霊柩車を見つめていた。 「ん?…ねぇホンヤもん。あのやけに長くて黒いタクシーみたいな乗り物はなんだい?」 「あれは…多分霊柩車だと思う。」 「れいきゅうしゃ?それはなんの車だい?」 「…死んだ人間を運ぶ車だよ。」 「死んだ人間を運ぶ……まさか!ミサエおばあさん⁉︎」 アッシュは血相を変えて彼の我が家から出てくる白い棺桶を確認すると、それに向かって突っ込んでいった。 「にゃー‼︎にゃーーー⁉︎」 悲痛な叫び声を上げながら、アッシュは棺桶を運ぶ人間のそばに近づくも、周りの人々に阻まれる。 この光景を見ていた僕はふと心が痛くなっていくのを強く感じた。これが僕を作ってくれた人が言っていた、大切な人が亡くなる事への悲しみ…なのかな? 知らないうちに僕の足は、自然とアッシュと人々の方向に向かっていた! 「すみませんが、その子に棺桶に入っている方の顔を少しだけで良いので見せてあげてくれませんか?この家の飼い猫だと[彼]から聞いているので。」 僕の言葉に一瞬迷いながらも、霊柩車に乗せられたその棺桶から顔だけが見える所に、彼らはアッシュを無言で手招きした。 「……にゃー(……おばあさん)」 アッシュは霊柩車の中から、一切動こうとはしなかった。 痺れを切らした運転手は辛そうな顔をしながらも、彼を棺ごと優しく扉を閉じていく…… 永遠の別れになる瞬間までの間、せめて一緒にさせてあげようと考えたからだ。 「ありがとう…彼女もきっと、大切な家族と再会できて嬉しかったと思うよ。」 「いえ…」 恐らく親族であろうか、年配の男性が深々と僕に頭を下げながら礼を言ってくるが、僕は一言しか言葉を出せなかった。 霊柩車がアッシュと飼い主さんを乗せて、ゆっくりと優しく走りその場を去っていく。 僕は人間達がその方向に向けてお辞儀してるのを真似するように、一緒に深く頭を下げた。 あれから約一ヶ月が過ぎた。 僕は葬儀の日以来アッシュの姿を見ていない。 飼い主のおばあさんと共に自ら命を絶ったか、または別の土地に一人で暮らしているのかすらも正直分からないのだから。 もしも生きているのならまた会いたいと、僕は初めて雄猫である彼を心から心配していた。 「ちょっと……ねぇちょっと!あんたってば‼︎」 誰だろう?こんな気持ちで歩いてる僕に話しかけてくれるのは。 ふと後ろを振り向き、声がしてきた足元に目線を下ろすとそこには見知った顔の雌猫がいた! 「ねぇあんた、アッシュを知らない?長いことこの街から姿を見てないのよ。人間と話せそうなあんたなら多分分かるんじゃないかしら?」 なんと、あの時僕をきっぱりと振ったミアだった。 「……知らないよ。じゃあね」 「え、ちょっと⁉︎」 感傷的に陥っているからか、もう恋愛とか気にしてられなくなっている僕は彼女の呼び止めにも応じる事なく、その場を無気力で立ち去る。 彼の事を心配しながらしばらく一人で歩き続けていくと、気になるポスターが風に乗って飛んで来たので、それをなんとなく手に取って読んでみた。 [猫の相談ができる人大募集!心悩める飼い主と猫を助ける手伝いを、一緒にしてみませんか?] 「……」 まあ、僕が他にできるものはなにもないし適当に歩くだけなのも疲れたもんなぁ…… 試しに足を運んでみるか。 まるで導かれるかのように足を運んでいく僕が見たもの…それは、木で作られたアンティークな別荘とその玄関前に簡素な作りの小さくて黄色い看板。 そこには、[なんでも猫人相談所]と書かれているのだが、もう少しセンスの良い名前はなかったのだろうかと僕はその時感じた。 「あらいらっしゃい!珍しい客ね?(まさか猫型ロボットが来るなんて……)」 僕が中に入ると、黒くて長い髪をポニーテールにしている20代らしき女性が元気な声で迎え入れてくれた。 その手には動物ブリーダーが使うような道具が両手に握られており、丁寧に手入れされている茶色の三毛猫が、気持ち良さそうな顔をして寝転んでいる。 「いやその、僕はこのチラシを見て来ただけなんですが…」 「あら!じゃあもしかして、この手伝いに興味を持ってきてくれたの?嬉しい!」 彼女は無事に三毛猫の毛づくろいを済ませるや否や、手早く黄色の生地に白模様が映えるエプロンを外して一枚の書類とペンを素早く取り、僕をそばにある長椅子へ座るよう促した。 「これは契約書よ。ここでするお仕事は主に迷子猫捜索依頼の人や、人間付き合いに悩みを持った猫達……その問題と真摯に向き合わないといけないとても心が痛くなる仕事だけれど、本当に良いの?」 「構わないです。少し前にもアッシュと言う名前の猫が暮らしていた家を彼と探してたけど、そこで不幸があったから……今でもどんな言葉をかけて良かったのかわかりませんし、その辛さを思えば今の自分にできるのはこれくらいかなと考えたまでです。」 「もしかしてアッシュってあの子の事かしら?…じゃあいっぺん面と向かって直接聞いてみたらいいんじゃない?おーい、おいでアッシュ!」 「にゃあ〜〜!(やぁ〜ホンヤえもん!)」 「え、うそ!なんでここに…」 目の前にいたのは、見るからに丸々と太って幸せそうな顔をしてるアッシュそのものだった! 「うそじゃないよ?僕はここのご主人であるお姉さんに保護されたんだ。 おばあさんの葬式が終わってから一週間くらい、墓の前で眠りこけてる時にね!」 「そうだったのか!良かった無事で……あの時はなにも言えなくてごめんよ?」 僕は目に涙を溜めながら、必死に己の気持ちを伝えたが彼はそれを首を振って否定し、泣き顔でこう語る。 「とんでもない!君がいてくれたから、最後におばあさんの顔を見てお別れを言うことができたんだ。 君は全然悪くない…むしろ感謝してるんだよ?だからもう泣かないでくれ」 「うっ!く…アッシュ〜‼︎」 「「…に"ゃあーー‼︎」」 僕達は抱き合い、思う存分に泣き続けた。隣で見ていたお姉さんはなにも言わず、笑顔のままもらい泣きをしている。 決めた!僕はここで働いて、アッシュ達みたいな悩みを解決する役目の仕事をしてみよう。 猫と人間の間に立って、辛いことや楽しいこと、悲しいことや嬉しいことを共に見守る存在になるんだ! それが今の僕にできる、たった一つの[役割]なのだから。
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