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第1話 職業とスキル
「な、なんだあのタンク!?いくらダメージを与えてもくたばりゃしねぇ!?」
「くそっ、あれか、『祝福と呪詛』のせいか!?一体なんだってんだ!?」
人語を話す魔物が焦りを見せて後退する。薄い盾を片手に、彼は高らかに笑う。
「ふはははっ!恐れろ!慄け!我こそは最強の盾!シン=ガルフォードなり!」
その後ろでは、仲間の3人が苦笑いをしている。
「これじゃあどっちが悪者かわかったもんじゃねぇ」
「ターディス、一応退路だけは確保しといて。まぁ、最弱ステータスのくせに最強を名乗れるって、ホント『祝福と呪詛』って糞だわー」
「あいつがいればこのダンジョンくらいわけないと思うけどな。相変わらずアロンは慎重だな」
「ほんっと、あれが駆け出しとか、マジないわー。」
「あ、泣いてる。聞こえてたんだ。エリス、とりあえず慰めてあげて」
白いローブの女が、高らかに笑う彼の頭をなでる。
「おーよしよし」
彼の目から流れ出る涙は頬を濡らして地面に落ちた。それでも笑う。笑わずにはいられなかった。自分の境遇に。望んだ姿とは真逆の立場に……
(どうして、どうしてこんな役割を……俺は……後衛の魔術師がよかったのに……)
異世界『ソーシャム』。ここは15歳になると職業と神殿で3つの能力を与えられる。
1つ、スキル、職業は全てランダムで与えられる。
2つ、初期ステータスは本人の希望に沿って神官が割り振る。
3つ、希望者には職業付与、スキル付与後に希望で『祝福と呪詛』を受ける権利が与えられる。ただし、1度限りでスキル付与時かクラスチェンジ時のみ、権利使用が可能である。
4つ、5年ごとにクラスチェンジが行える。ただし、ステータス値は元々のステータスを参照とする。
5つ、職業を付与されたものがダンジョンやクエストで死ぬ場合、神殿にて復活される。ただし、4回目の死亡をもって天寿全うとし、復活できなくなる。
そして、今日、15歳を迎えた主人公シン=ガルフォードは神殿へ向かう。
「おー、シン。早速行くか、神殿」
神殿へ向かう途中でシンに声をかけたのは、5日前に神殿で『剣士』の職業を受けたアロン=トラックスだ。
「へへっ、もう今日を楽しみにしてて仕方なかったぜー」
「ったくのんきなもんだ。何の職業になるかもわからんのに」
「俺は確信しているっ!ズバリ、魔術師!それ以外になぁい!!」
立ち止まり、天に指を掲げる。
「本音は?」
「ぶっちゃけ前衛とか怖い。後ろでこそこそ応援しておきたい」
「お前らしいな。『祝福と呪詛』は受けるつもりでいるのか?」
「うーん……スキルみて決めるかなぁ」
「最悪、冒険者になれないこともあるしなぁ」
『祝福と呪詛』―――。この世界の神によって与えられる最上級の幸運と不幸のスキル。常在スキルとして常に発揮されるそれは、この世界において最高のスキルである。しかし、ランダム性の強いこの世界でのスキル付与にはリスクが大きく、しかも通常スキルとは違い、それを外すことは今後できなくなる。さらに、この能力のリスクとして、与えられた職業に沿わない場合もあり、戦士でありながら【無限魔力:自身のMPが枯渇しない】などのスキル付与がされることもある。その上やっかいなのは『呪詛』である。これはスキル保有者にデメリット効果をもたらすのだ。過去の悲惨な『呪詛』の一例は【常時毒付与:常に毒状態】【ダメージ倍増:受けるダメージがすべて倍となる】【魔力回復不可:魔法による回復が不可能となる】など、一生を背負うにはあまりにもリスキーなもの。『祝福』も使いものにならない場合、本当に目も当てられない冒険者の出来上がりである。
「でもなぁ、英雄クラスは『祝福と呪詛』は必須だからなぁ」
「ライトフォード戦士長は別格だよな。『祝福』スキル【状態異常変換:全ての状態異常の効果が『自身のステータス3倍』となる】と『呪詛』スキル【簡易状態異常:状態異常付与を必ず受ける】だもんな」
「ありゃ別格だよ。『呪詛』が呪詛になってねぇもんよ」
「悲惨なのはバルディ魔術士長かな。『祝福』スキル【魔力倹約/効果倍増:使用魔力が半減する、また攻撃魔法の威力が3倍となる】と『呪詛』スキル【魔法自己反射:自己が放つ攻撃魔法が2分の1の確率で自身に反射となる】だね。まぁ、反射魔法でさらにそれを跳ね返すっていう荒業使うから関係ないっちゃ関係ないけど、タイミングミスるとマジで死ねるよね、あれ」
「『祝福と呪詛』は職業と効果がかみ合ってて、なんとかなるものがいいなぁ」
「この間ひどいのを見たぞ。職業盗賊なのに『祝福』スキル【魔力物理変換/防御倍増:魔力攻撃or物理攻撃をHPかMPで受けることができる。また、攻撃を受ける際に防御力が2倍】、『呪詛』スキル【超重力:重力増加による素早さ、回避率の減少。及びジャンプ力の減少】てのがいた」
「何そのタンク。マジタンクじゃん」
「盾役なら最強レベルだったのにな。体力も魔力も少ない盗賊じゃ話にならんよ」
「俊敏性を失って盗賊としてほぼ機能しなさそうだな」
「レベル上げればどの職業でもステータスは上がるけど、その職によってステータスの伸び率もかわってくるからなぁ」
「それで、剣士のアロンさんは『祝福と呪詛』は受けたのですか?」
「いや、さすがにあれを見た後だとやめたわ。」
「あ、その時見たのか」
「まぁ、俺は通常スキルが【豪傑(攻撃):HPMAXの時に与えるダメージが1.5倍】【強運:攻撃を受けるとき、ダメージが1になることがある】【状態異常耐性:状態異常時、時間経過により回復する】って、前衛向きだったから、今のところいいかなって」
「なにその当たりスキル。全部当たりスキルじゃん」
「まぁ自爆スキルがなかっただけありがたかったわ」
「スキルは3つまで装備できて、ダンジョンとかで手に入ることがあるんだっけ?」
「まぁね。でも、所持できるスキルは3つだし、交換したスキルは消えちゃうから結構慎重になるよね」
「まぁ、俺は最強の魔術師として、後衛からこそこそ応援してるから、頑張れ前衛」
「楽しみにしてるぜ」
そうして、期待を胸に、シンは駆け足気味に神殿へ向かった。
神殿―――。神官が無職者にステータスを割り振っている。ステータスの割り振りは、本人の希望により割り振られる。とはいっても、40そこそこを体力、攻撃力、防御力、魔力、魔力防御、俊敏性、知力などなどに分けるだけで、初めはせいぜい体力と魔力を多めに割り振ってそこからレベルを上げて能力値を上げていくだけ。希望の職に就けるように気になった能力値に割り振るのが無職にできる唯一の権利だ。ったく、職業決めてからステータス降ってくれればいいのに。
「祈りなさい。そなたのステータスを割り振りましょう」
うっわー。ステータス割り振りとかまんまで言ってきたよこの神父。まったく、もうちょっと言い方とか考えてほしいよな。
「我が能力は全にして一、一にして全。統一ステータスは全ての~」
とか、それっぽく言ってみたり。
「……あー、全が一、一が全、ね。はいはい」
ポリポリと頭を掻きながら神官はステータスを打ち込んでいく。それを俺は受取り、自身のステータスを認証した。ちなみに無職者はステータスを確認できない。ステータス確認ができるのは職業、スキル登録を終えてからになるのだ。
次に職業。いよいよだ。晴れて迎え入れる俺の職業。頼むぞ、魔術師、魔術師……
「職業だが……ふむ。君には盾役(タンク)だな。頑張り給え」
タンク?っていうと、あの、超絶前衛の?うっそーん……
「ガーン……たんく……たんく……たんく……」
「はい、次、スキルを授けますので、手をお出しください」
神官が手を広げ、空を仰ぐ。俺はとりあえず悩むのはスキルをもらってからと、唾を飲み込んだ。仕方がない。こうなりゃ戦闘で使えるスキルを……
「3つのスキルを授けます。おぉ、これは珍しいスキルですね」
「珍しい!?やっ……?た?」
渡されたスキルを確認する。【不変:戦闘におけるスキル、魔法によるステータス変化がなくなる】【豪傑(体力):HPMAX時、HP0になる攻撃を受けた際、代わりに1にする】【大器晩成:パーティの成長速度が遅くなるが、レベルアップ時、パーティの能力値が上昇する】。うーん……サポートスキルか……。【豪傑(体力)】はまぁ使えるんだけど、これってレベルアップしていくとあんまり意味なくなるんだよな。しかも連続で攻撃受けると死んじゃうし。【不変】って、防御上げたりとかもできないってこと?うっわ、最低じゃん。あー、外れだわー。オワター。
「さて、君に与えられた『祝福と呪詛』。使いますか?」
「あー、もうどうでもいいんで、使っちゃってください」
望まぬ職業に、希望を見出せないスキル。もう、冒険者やめようかな。
「それでは、祈りなさい」
先ほどと同様に、神官が手を広げ、空を仰ぐ。そして、天から舞い降りた白い光と黒い光が、俺の手に収まった。
スキル確認を行う。『祝福』スキル【状態異常/対象無効:あらゆる状態異常にならず、敵の魔法/スキルの効果を受けない】、『呪詛』スキル【ステータスアップ無効:レベルアップ時、ステータスが上がらない】。
「えー…、大変なこともありますが、決して諦めぬよう、精進してください」
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