あの時僕は間違いなく、死のうとした。

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あの時僕は間違いなく、死のうとした。

***  西日の眩しい夕暮れ時、恭祐(きょうすけ)は電車を降りた。会社帰りのサラリーマンたちに体を押され、思わずよろけてしまう。まだ夕方と言って良い時間帯だが、今時のサラリーマンは残業削減に熱心なのかもしれない。実家が診療所の恭祐は、今時のサラリーマンがどういうものか、知らないのだが。  今日は予備校のない日だったので、まっすぐ学校から帰って来てみたが、家へ向かおうとする足は重い。家に帰りたくない。両親と顔を合わせなければならないと思うと、何一つ後ろ暗いことはなくても、自然とため息が漏れた。  ファミリーレストランにでも寄って少し自習してから帰ろうか。しかし、そうしたら、予備校もないのに帰りが遅いことをとやかく言われるだろうか。説明すればわかってくれるかもしれないが、機嫌が悪ければまたおかしなスイッチが入って、がみがみ言われるかもしれない。それもなんだか、面倒くさい。  ああ、嫌だな。  親との会話も、勉学も、受験も、家に帰ることも、生きることも、何もかもが面倒だ。息苦しい。ずっと真綿で首を絞められているような、そんな感覚から抜け出せない。  恭祐は寄り道を諦めて、家へ向かって歩き出した。ちょうど、踏切が閉まったところだった。急いで帰りたかったのであろうサラリーマンは不機嫌な顔をしていたが、恭祐はほっとしていた。ほんの少し、家に帰るまでの時間が延びた。  カンカンカン、と踏切のけたたましい音が鳴り響く。電車が、すぐそこまで来ているのが見えた。  一歩を踏み出せば、この牢獄から解放される。  ほんの一瞬であったが、恭祐は確かにそう考えた。その一瞬で、自分は命を落とすことができるだろう。そうしたら、自由になれるような気がした。死んで初めて、自分が自分でいられるのではないかという気がした。一歩でいい。今、この瞬間、ほんの少し前に飛び出すだけで全てが変わる。なんて簡単なことだろう。なんて甘い誘惑だろう。
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