あの時僕は間違いなく、死のうとした。

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 気がつけば、涙が止まらなくなっていた。道行く人が驚いて振り返っても、どんなにこらえても、止まらない。いつもなら、両親から泣き止めと言われたらいくらでものみこめたのに。  皆見ている。泣き止まなきゃ。わかっているのに、涙は止まらない。体が言うことを聞かない。 「ご、ごめん」 「どうして謝るの?」  誠司(せいじ)の返答に、恭祐(きょうすけ)は驚いて顔を上げた。誠司は心底不思議そうな顔をしていた。 「泣きたいならいくらでも泣けばいいじゃないか。迷惑とかなんとか、なあんにも、考えなくていい。君がここで泣いてたからって、誰も傷つかないし、誰にも迷惑なんてかからないよ」  誠司の声は子守歌のように優しい。かく言うこの友人こそ、両親から一切の関心を向けられず、幾度となく家を飛び出しては恭祐の家に転がり込んでくるような少年だ。誠司に向かって弱音を吐くなど、許されないことだと思っていた。  しかしそれは、恭祐の勝手な想像に過ぎなかった。馬鹿だ。誠司はそんな少年ではなかった。泣きたいなら泣いて良いし、好きな物は好きでいて良いと言ってくれる、そういう友人だった。  肩を引き寄せられて、とんとん、と子供をあやすように背中をたたかれてしまうと、もうだめだった。涙は止まるどころか一層あふれ出して、恭祐は幼い子供のように泣いた。
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