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17時半、定時ちょうど。
帰り支度を始めた私の机をトントンと指で叩いたのは、隣の席の6つ年上の先輩・由紀さんだ。
「亜子ちゃんご飯でもどう? たまには気晴らしに」
「ごめんなさい、家で弟が待っているから」
せっかくの厚意に応えられないのがもどかしい。
「そっか、そうだよね。ごめんね」
申し訳なさそうに肩をすくめた由紀さんに慌てて頭を振る。
「父が早く帰れそうな時や、家にいる時なら大丈夫です! その時は私から誘ってもいいですか?」
「勿論だよ、待ってるね、亜子ちゃん」
微笑む由紀さんや事務所にいる上司たちに頭を下げて家路を急ぐ。
宿題は終わったか、お風呂掃除は終わったのか?
夕飯の買い物をしながら、家で待っている陽斗を思った。
確か今日は図工で絵の具を使うはずだったのに、白い服を着て行ったのを今になり思い出してため息がでる。
「亜子ちゃん、おかえり~! さっき、陽斗くん公園で見かけたよ。暗くならない内に帰るようにって伝えておいたから」
「いつも気にかけてくれて、ありがとうございます!」
スーパーで会った近所に住む山内さんの言葉を聞いて悪い予感が走る。
予想では、宿題はまだやっていないし、お風呂掃除もやっていない。
服はカラフルな絵の具だけではなく、きっと泥もついてるのだろう。
明け方まで降り続いた雨のせいで水はけの悪い公園は乾ききっていないはずだもの。
玄関を開けた瞬間にがっかりする自分の姿さえも見えた気がする。
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