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「オレがいたら姉ちゃん、何もできないんじゃないの? 遊びに行ったり、後、デートとか」
「はあ?!」
「オレ、姉ちゃんの邪魔になってない? オレがいなきゃ、大学だって行けるんじゃないの? 今からだって」
私の胸に顔を埋めてしゃくり上げるように激しく泣き出した陽斗をギュッと抱きしめた。
自分の欲求しか言わないと思っていたチビスケだった陽斗がいつの間にか私のことを考えるようになっていた。
「ここが嫌だから婆ちゃん家に行くって言ったわけじゃないんだね?」
「うんっ」
「姉ちゃんのためにって思ったんだね?」
「うんっ」
ずびっと鼻水をすすった陽斗の頬っぺたを両手でむぎゅっと挟んで顔を上げさせる。
「バカだね、あんたは! 嫌じゃないなら、ここにいろ! 姉ちゃんや父さんのことが好きならここにいろ、陽斗!」
私が無理だ、陽斗と離れるなんて、絶対に嫌なんだ。
「姉ちゃんを一人にするな、陽斗!!」
笑って見せたのはずなのに、またボロボロ涙が落ちちゃって。
陽斗の小さな手が私の頬を必死に撫でる。
ああ、優しい手だな、母さんみたいだ。
バカみたいに二人で泣きあって、しばらくしたら陽斗のお腹がぐうって大きな音をたてるから笑い合う。
「さてと、焼きそばでも作るかな。手伝ってくれる人いる?」
「何したらいい?」
「今日は炒める係を陽斗にしてもらう。ちょっとずつ料理覚えてもらって、あんたが中学生になったら夕飯係になってもらうからね? その頃になったら、姉ちゃん関ジャズセブンの大石くんと付き合うかもしれないから」
私のバカな冗談に、陽斗は笑いを堪えながら頷いて。
「あのね、姉ちゃんと父さんと一緒に暮らしたい」
目に一杯涙を湛えていても、いつもの歯抜けの笑顔が戻ってきた。
「じゃなきゃ、困る。ここに、あんたがいないと。だからね、もう二度と言うな! わかった?」
指切りげんまんと差し出した私の小指に陽斗の小指が絡んだ。
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