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稼いでこいってことですか?
「王様。ちょっとどいてくれない?」
「嫌だ」
家には王様がいる。
優雅にソファーに横になり、微動だにせず、私に視線だけを投げて寄越した。
王様はその姿も文句無しに美しく、滑らかな黒の毛はビロードのような光沢があり、艶やかで私の髪とは大違い。
瞳はグリーンで涼やかな目元、すらりとした手足―――高貴な顔立ちをしている。
エメラルドやルビーなんかが似合いそうだ。
仕方ないと渋々、他のソファーに座るとわざわざ王様は移動してきて、ずしりと体重をかけてくる。
「愛でよ」
なにが『愛でよ』だよ。
私の他にも女がいるでしょ?
しかも、近所にさ。
知っているんだよ。
夜に家を抜け出しては、女と会っているのはね。
頭をスッと差し出してきた。
私に撫でろと?
王様だけに常に自己主張を忘れず、自分の存在をアピールしていると思われる。
逆らえずに撫でると、王様は満足げな顔をしていた。
かつて、王様は絶大な人気を誇り、欲しいものはなんでも手に入れてきた。
けれど、王様は国を追われて、今では庶民。
我が家にいる限りは『郷に入れば郷に従え』―――我が家ではどちらの立場が上なのか、わからせる必要がある。
「王様、そのクッションは私のクッションだから、返してくれるかな?」
「断る」
いつの間にか、私が買った一万円もする寝心地最高なクッションを奪ってゴロゴロしている。
なんだ、こいつ。
どうも、私よりは上だと思ってない?
「自分のを使いなよ!」
「また買えばいいだろう?これは俺のだ」
なんだとー!
居候に等しいくせにっ!
なんて生意気な。
「高校の事務員の給料、ナメんな!一万円は大金なんだよっ!」
「ふがいない……」
「やかましいわっ!」
クッションを無理矢理奪うと、王様は恨めしい目で私を見てきた。
なんて図々しい。
ほら、これでも使いなよっ!と、ホームセンターで購入した3980円のクッションを投げた。
その安いクッションに八つ当たりするかのように王様はイライラとパンチしていた。
「文句があるなら、自分で稼ぎなさいよね」
そう言うと、王様は―――『なに馬鹿なこと言ってるんだ、お前は』なんて目で見てくる。
「ちょっと、いいじゃない。王様にクッションくらいあげなさいよ。可哀想でしょ」
「そうだぞ。王様に譲ってやりなさい」
両親から、何故か私が叱られた。
他の家族は完全に王様の味方だ。
すっかり王様に骨抜きにされてしまっている。
―――これが王というものか!!
王は下々を簡単に従えることができる。
なりゆきとはいえ、私はとんでもない奴を家に招き入れてしまったようだ。
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