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お出迎え
「はー、ただいま。疲れたー」
「遅かったな」
一日の仕事が終わり、帰宅して家の玄関に入ると、王様がどーんと待ち構えていて、そんなことを言った。
私の車の音で帰ってきたのがわかったらしい。
「遅かったって……。こっちは汗水流して働いてるからね?」
「ふっ!ごくろう」
王様は遠巻きに私の姿を見ながら、不遜にもそんなことを言ってきた。
なにがご苦労だ。
「王様の好きなお刺身、買ってきたよ」
「ほう。よく気が付いたな。褒めてつかわす」
「そこは『ありがとう』でしょうがっ!」
「ふっ!お前こそ、この尊い体に触らせてやるのだからな。感謝せよ」
ようやく『合格』とばかりに近寄ってきて、触らせてくれた。
なんて奴だ!!
確かに王様に触れると一日の疲れは吹き飛ぶ。
甘えるように王様は手に顔をすり寄せた。
ここが楽園か―――なんて、油断していると『はい、終わり』とばかりに体を離された。
なんだよ、もうちょっと堪能させてくれないのかな?
「なでただろう?さっさと用意しろ」
モタモタするなとばかりにキッチンへと先導された。
なんという割り切った大人の関係よ。
利害関係でしかないの?
私達は―――悲しくなりながら、その背中をおった。
けれど、王様が自分の好物に可愛らしく喜んでいるのを見ると、ついつい頬が緩んでにやっとしてしまう。
王様、大好きだよ。
たとえ、それが私の一方通行の感情であったとしても―――なんて、せつない。私の片思い。
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