愛の試練(フレデリック視点)

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愛の試練(フレデリック視点)

 あの日、俺はアルファン伯爵……いや、ジークハルトと真実の愛によって結ばれた。  俺はジークハルトに真実の愛とはなんたるかを教えてもらったのだ。そう、真実の愛とは性別すらも乗り越えた先にある奇跡のようなものなのである。と。  あぁ、ロゼリアには悪いことをしたかもしれないな。あの頃はロゼリアこそが真実の愛の相手だと錯覚していたが、あれはテイレシアに虐められるロゼリアを可哀想に思っただけの同情だったのだ。俺の正義感が強すぎたせいによる錯覚だな。確かにロゼリアはとても可愛いし、庇護欲をそそる見目をしている。少しばかりワガママなのも魅力のひとつかもしれない。だが、ジークハルトの素晴しさには足下にも及ばないとわかってしまった。  ジークハルトはなんといっても素晴しい。  ジークハルトはとてつもなく美しく、気品もあり、何よりも俺のことをわかってくれるのだ。こんなにも理想的な相手がいるだろうか?  真実の愛を前にすれば、性別なんて些細なことだと俺に教えてくれた……何よりも俺は愛されている!……だって、あんなことをした相手はジークハルトが初めてなのだ。(ポッ)  俺に婚約者にと望まれて結婚式を心待ちにしているロゼリアには申し訳無いが、この婚約は解消することにしよう。俺が永遠に側にいたい相手はジークハルトしかいないのだから。  もしかしたらロゼリアは嫌がるかもしれないな。なにせ俺にかなり惚れているようだし。だが諦めてもらうしかない。そこは誠意を持って対応するしかないが……俺はなんて罪な男なんだ。  しかし結婚したい相手が男となれば父上と母上は反対するだろうか……。いや、待てよ。ジークハルトはあんなに美しいのだから父上たちに紹介するときは女装でもしてもらえば誤魔化せるのでは?結婚さえしてしまえばこっちのものだ。ジークハルトは嫌がるだろうか?……いや、彼は俺を愛しているのだからそれくらいやってくれるだろう。なにせ王子である俺の伴侶になるのだからそれくらいなんてことないだろう。  俺がジークハルトと愛を確かめあった日、お茶会をしていたはずのロゼリアと令嬢たちはいつの間にか解散していてロゼリアも部屋へと帰っていた。やはりお茶会の途中で抜け出してしまったのはまずかっただろうか?しかしあの時はまさに緊急事態だったのでしょうがないじゃないか。なによりも俺が真実の愛を確かめた瞬間だったのだ。  それなのにあれから数日、ロゼリアは部屋に閉じ籠っていて顔を出さくなってしまった。様子を見させに行ったメイドの話では部屋には入れてもらえず、耳を済ますとカリカリとなにかを引っ掻いているような音と時おり紙をバサッと散らかしているような音が聞こえたらしい。まさか乱心して壁を引っ掻き、本でも破いてばらまいているのではあるまいな?はぁ、ロゼリアを追い出した後の部屋の惨状が目に浮かぶようだ。  もしかして拗ねているのか?まったく、ロゼリアがこんなに面倒な女だったとはがっかりだ。ロゼリアは俺を愛しているなら俺の本当の幸せを願うべきなのではないのか?  せっかく俺がテイレシアの魔の手から救ってやったのだから、例え俺の愛を勝ち取れないとしても拗ねて部屋から出てこないなんてとんでもないことだ。  愛とは……相手を思いやることなのだから。 「あぁ、ジークハルト……」  俺はジークハルトの姿を脳裏に浮かべため息をついた。あの日、ジークハルトは王宮には泊まらず帰ってしまったのだ。側にいて欲しいと訴えると「僕は、僕のけじめをつけてきます」と名残惜しそうに手の甲に唇を落としていった。  けじめとはなんだろうか?だが彼も俺との未来のためになにかを成し遂げようとしてくれている事だけはわかる。王子と伯爵ではまず身分差があるからな。今となってはこの身分が怨めしい。俺が彼と同じか……せめて王族でなければこんなにも悩むことはなかっただろうに。これも愛の試練だと自分を戒めるしかない。  それから数日後。まさかあんなことになるなんて今の俺は思っても見なかった。  母上が……母上が帰ってきてしまった!!  え?!なんですか母上……その抱き締めているやたら薄っぺらい本は?しかも同じような物が大量にある???
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