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友人の弟の恋人の友人の従兄弟からの情報なんてもはやただのデマでしかない
「……なんでも、運命の相手なのだそうで……」
王子に婚約破棄されたあげくに城を追い出された私は、ため息混じりに重い口を開けました。
＊＊＊
婚約者であるフレデリック殿下にロゼリアを紹介したのはお父様が再婚され家族が４人になった記念日から1か月後でした。
「フレデリック殿下、この子が私の義妹のロゼリアですわ」
その頃の私とロゼリアはまだ少しぎこちなかったかもしれません。
もちろん嫌ってなんかいませんでしたし、初めて顔会わせした時からとにかく可愛い義妹でしたわよ。私、昔から妹が欲しくて欲しくてたまらなかったんですもの！念願の義妹！マイシスター！
でも、だからこそ、嬉しすぎて恥ずかしくなってしまったのですわ。
「はじめまして、ロゼリアと申します」
少し緊張気味にフレデリック殿下に挨拶をするロゼリアの姿はまさに天使か妖精のように可愛らしかったです。
私の義妹は世界一ですぅぅぅ！！
あぁ、でも挨拶の後にそんなにモジモジとしていてはいけませんわ。頬を染めて瞳を潤ませ上目遣いなんて……(とっても可愛いですけれど)フレデリック殿下はこの国の第１王子ですもの、ちゃんと礼儀正しくしていないと不敬になってしまいます。
「ロゼリア、ちゃんと姿勢正しくなさい」
「は、はい！ごめんなさい、お義姉様！」
私の言葉に慌てて姿勢を正すロゼリアの姿に心が痛みます。
ああぁ……厳しい事を言ってしまったかしら。ロゼリアは王子とこんな間近で会うのは初めてなんですもの、多少緊張して挙動不審になってしまうのは致し方ないことですのに。
「……わたしったら、ついはしたない妄想を……あぁ、でもこの容姿なら受けでも攻めでもいけそうです……」
あら？ロゼリアが何か小声でブツブツと呟いてますけど……よく聞こえませんわ。やっぱりかなり緊張しているのね。いくら可愛い義妹を見せびらかしたかったからといっていきなり王子に紹介するなんて、私のバカ！ロゼリアに嫌われてしまったらどうしましょう……。
「ロゼ「おい、言い過ぎだろう！」えっ」
ロゼリアが少し震えてるようにも見えたので慌てて声をかけようとした私をフレデリック殿下が厳しく口調で嗜めてきました。
「聞けばこの娘は最近まで伯爵家だったそうじゃないか。それが突然公爵家の娘にされて戸惑いもあるだろうに。たかだか1か月程で急に公爵令嬢らしく振る舞えとは横暴だな。テイレシアはこの義妹を疎ましく思っているのではないか」
「なっ……そんなことっ」
疎ましくなんて思っているはずがありません！と反論しようとしたがフレデリック殿下に手で制されてしまう。
「もういい、言い訳など聞きたくない。ロゼリア嬢よ、あちらで一緒にお茶でもしよう。君は俺にとっても将来の義妹になるのだから遠慮は不要だ」
「えっ、でもお義姉様は……」
「……テイレシア、久々に君が手ずから淹れた紅茶が飲みたい。あちらのガゼボに持ってきてくれ」
それだけ言い残すとフレデリック殿下は私の返答も聞かずにロゼリアを引っ張って連れていってしまった。
くっ、なんてこと！ロゼリアを人質にとられましたわ。早く紅茶を淹れて追いかけなくては可愛いロゼリアにいちゃもんでもつけられたら大変です……！
あの思い込みの激しい殿下が何をしだすか心配になり、私は慌てて身を翻しました……。
「……フレデリック殿下は、私が義妹をこそこそと苛める毒婦だと申されました。自分は可哀想なロゼリアを救うのだと……」
そう、あの阿呆……ゲフンゲフン。自称正義感の強い第１王子は、義妹を疎ましく思い、苛めるような女などは自分の妻に相応しくない。辛い思いをしているロゼリアは自分に助けを求めている。どのみち公爵家から娶るのであれば何の問題もないだろう。などとほざいたのです。
「お義姉様がわたしを苛める？！どこからそんな話が出てきたんですか！」
私の話を聞いて声を荒げるロゼリア。本当なら淑女としてはしたない行為ですが今それを咎める人間はここにはいません。
「なんでも、殿下のご友人の弟君の恋人のご友人の従兄弟の方が、田舎から王都に遊びにこられた時に噴水広場前で私らしき女性がロゼリアらしき女性をきつく叱っていたらしい場面を目撃されたとか……」
それを聞いた殿下は「そういえばテイレシアはロゼリア嬢を俺の目の前で酷く傷付けていたことがある。やはりあの女は義妹を苛めていたのか！許せん！」と持ち前のアホ……ゲフンゲフン。正義感を発揮されたそうなのです。
「……は？なんですかそれ……？えっ、その友人の弟の……誰？は、お義姉様のお知り合いですか？」
「ご友人の弟君の恋人のご友人の従兄弟の方よ。もちろん知らない方ですわ。その方はフレデリック殿下の婚約者としての私の事はご存知らしいのだけど、黒髪の豪華なドレスを着た女性だったからって私だと思ったらしいのよ」
「今時、黒髪の女性なんて王都には数えきれない程いますよ？！他国からの観光客にだって黒髪も多いのに！わたしらしき女っていうのも、もしかして金髪だったからとかだけですか？！」
私はロゼリアの言葉にこくりと頷きました。
ちなみに私、街に出るときはお忍びですので豪華なドレスなんて着ません。たまにロゼリアと姉妹デートはしますけどケンカしたこともないですし、そんな噴水広場前なんて目立つところでロゼリアを叱るなんてあり得ませんわ。
「今回ばかりは私がどんなに言っても容疑者の言葉など何の価値も無いと耳を傾けてはくれませんでした。
ロゼリアが殿下を慕っていて、さらには殿下はそんな奥ゆかしいロゼリアを愛しく思っていると。私のことはそれを嫉妬してロゼリアに酷い仕打ちをした悪女として訴えるらしいですわ……」
正直、殿下と婚約破棄になるのは……まぁ、いいです。ただ、こんなに可愛い義妹を嫉妬から苛めているなんて勘違いされてるのが悔しいんです！
あ、でもその前に確かめておかなくてはいけないことがありますわ。
「あの、ロゼリア……。あなたは殿下のおっしゃる通り、殿下を愛しているの？殿下は勘違いの達人だからまさかとは思いますけど、ふたりが両想いで私との婚約を邪魔に思った殿下が暴走したならーーーー」
私がロゼリアを苛めた云々はもちろん殿下の勝手な勘違いですけど、ロゼリアがもしフレデリック殿下に懸想しているなら私は潔く身を引こうと思っていました。しかしロゼリアに視線を向けると、なんとも言えない嫌そうな表情をしています。
「やめてくださいよ、お義姉様！あのクソ王……殿下の事は妄想上の観賞用には素晴らしいけど人間として生理的に無理です！そんなことおっしゃるから鳥肌が立っちゃいました！」
やはり全て殿下の勘違いですね。確かに以前ロゼリアに殿下の事をどう思うか聞いた時も同じようなことを言っていました。
可愛い義妹の男性の好みがあんなのでなくて本当によかった。と、胸を撫で下ろしました。
私だって、王命でなければあんなのごめんですから！
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