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第1話
毎朝6時30分に目覚ましが鳴る。
ボクは目覚ましを止めて、ベッドを降りると服を着替えて、それからパパの部屋の扉を3回叩いてからキッチンに行く。
パパの部屋からは、目覚まし時計の音が少しだけ聞こえる。
あれは、枕元に置いてあった目覚ましをパパが床に落っことして、その上から掛け布団とか枕を乗せた後の音だ。
昨日は帰ってきた時スゴイ酔っぱらった声を出していたし、時間もいつもより遅かったから、今朝はきっと起こすのが大変だ。
ボクは冷蔵庫を開けると、タマゴを二つとマーガリンを取り出す。
食パンにマーガリンを塗ってオーブントースターに入れたら、フライパンに油を敷いてガスレンジに火を点ける。
それから換気扇を回して、タマゴをフライパンに割り入れ、コーヒーの準備。
ホントはもっとハムとかソーセージといったお肉も食べたいな…と思っているんだけど、朝が大の苦手なパパは朝ご飯をちゃんと食べる事が出来ないんだって言う。
それならボクだけ副菜をつければ良いんだけど、ボクのお皿にソーセージが乗っていると出しても食べないクセにパパは「オマエだけ、ズルイ」って言う。
朝からそんなつまらない事でパパのオコゴト(?)を聞かされるのはどう考えても嬉しくないから、ハムは諦めてタマゴだけ…ってコトに今は落ち着いている。
ボクとパパの好みは、目玉焼きでも分かれている。
ボクは少し黄身がトロッとしている方が好きなんだ。
トロリとした黄身をパンに付けて食べるのが美味しいんだよね。
でもパパは「目玉焼きはカチカチが最高!」って言って、半熟の目玉焼きを出すと食べないんだ。
朝ご飯の支度が出来たところで、ボクはもう一度パパの部屋に行って、今度はドアを開けて中に入った。
「パパったら、遅刻するよ!」
落ちている枕と目覚ましを拾ってベルを止め、それからいつものように掛け布団を思いっきり引っ張る。
でも、掛け布団の下からは、パパの他に見た事もない裸のお姉さんが出てきた。
†
パパがなんだか言い訳っぽいコトを言いながら起き出してくる前に、ボクは大慌てでカバンを持つと家を飛び出した。
学校にはまだ全然早かったし、朝ご飯も食べてなかったけど、そんなコト言っていられない。
パパのベッドに裸のお姉さんがいた時は、とにかくソウキュウに家から逃げ出さないと、イロイロ大変なんだ。
坊やいくつ? とか、あらカワイイ! とか、いやだ小さいハルカみたい! とか。
みんなそれぞれ言う事は違うけど、必ずボクをコドモアツカイして朝からボクをフカイにしてくれちゃうんだ。
ボクは8歳で、確かにまだ子供だけど。
クラスでは背だって後ろから数えた方が早いし、かけっこだってクラスで1番か2番だ。
勉強はあんまり好きじゃないけど、パパが先生に呼び出されるようなヘマもしたコト無い。
自称「決める時は決める」と言ってるケド、家にいる時はまるでなんにも出来ないパパに代わって、掃除も洗濯も買い物もボクがやっているっていうのに。
全く、失礼しちゃうのだ。
表通りは会社に行くサラリーマンとかOLが歩いているけど、マンションの裏手にある公園にはさすがにこの時間だと誰もいない。
お腹空いたなぁ。
でも、ジュウタクガイのこの辺りは、お店が開くのが10時とかだから今はどうしようもない。
スーパーマーケットはやたら充実しているんだけど、コンビニは駅の側まで行かないと無いっての、スッゴク不便だっていつも思う。
駅はココからそれほど遠くないから歩いていこうと思えば行けるんだけど、駅の周辺にはホドウインのオバサンが待機していてコンビニなんかに入ろうものなら即座に「ショクムシツモン」されちゃうのだ。
ボクと同い年くらいの私立の学校に通っている子供はみんな制服を着ているから、そういう言い訳も通らないし。
パパが予告もなくお姉さんを連れて帰ってきた日は、いっつもコレだよ!
でも、お酒を飲んで前後不覚になっている時のパパは、いつもの時以上にキキワケが無いから言っても絶対カイゼンされないんだよなぁ。
今日は学校の側のパン屋さんで朝ご飯を調達しなくちゃだ。
パン屋さんの開店時間は8時だから、それまでは少しお腹が空いていても我慢するしかない。
ベンチに座って、ボクはカバンからゲームボーイを取りだした。
でも…。
ゲームボーイの電源を入れる前に、ボクは公園の中を横切っていく大人の人に気が付いた。
少し痩せた男の人で、黒っぽいスウェットのズボンとスウェットの上着を着ているところは、なんだか体操の先生みたいなんだけど。
顔に、その格好に全然似合わない、真っ黒なサングラスをかけている。
右手に杖を持っているから、シリョクショウガイのヒトかと思ったけど、周りを気にしてキョロキョロしているところを見るとちゃんと見えているらしい。
右の足を引きずっていて、その所為で杖をついているっぽい。
そして、杖を持っている右手に大きなゴミ袋を持っていて、左手はだらんと提げている。
よく先生が言ってる「キョドウフシンなヒト」って言うやつかもしれない。
そういう人を見かけたら、関わりにならないで早く大人に知らせなさいって、先生は言っていたけど。
でもあまりにもヘンテコな格好をしているものだから、ボクはそのヒトをジッと見てしまった。
ボクがあまりにもジッと見た所為かもしれないけど、そのヒトもボクに気が付いたらしい。
立ち止まってボクの方に顔を向け、杖とゴミ袋を持っている方の手でサングラスをちょっとだけ提げると、隙間からボクを見てる。
ヤバイなぁって思った時には、もうそのヒトはボクの方に向かって歩き出していた。
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