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神の力は強大で便利なものばかりだ。自らの掌を鏡面にすることさえ可能なのだ。
これぞ真の手鏡。我にとって“手鏡”とは“手に持つ鏡”ではなく“手の鏡”。
我は鏡面になった自身の手を覗き込んだ。
何と言うことだ! 我の顔面は外側から鼻があるはずのところに向かってめり込んでいる。
これは…まるで……潰れたあんぱんみたいではないか…。
審議は終わりだ。貴様は耐え難い拷問を長時間受け苦しみに苦しんだ末、死ぬことになろう。
まずはこの醜い顔を再生させ………
トントン
誰だ、人間が神に気安く触るな。不意に後ろから肩を叩かれ、我は振り返る。
「なんだ、貴様か。よくも顔をへこませてくれたな。貴様には地獄の苦しみを………ってなんで動いている!?」
ドゴッ!
「ガハッ……!」
神の目にも留まらぬ速さで頬を強打され、我の身体は後方へ吹き飛んだ。
な、なぜだ? 時間を止めていたはず…。自力で破ったのか?
いや、破るってなんだ? 時間というものは力ずくとかそういうものではない!
まずい…。まだ顔が完全に再生していないのに…。
視界は揺れ若干の白い靄がかかっている。再生しないでこれ以上攻撃を喰らうと死んでしまう…。
大丈夫、もう一度…。もう一度、奴の時間を止める。
倒れた我に馬乗りになって殴り続けようとする彼…いや、この化け物への恐怖か痙攣かわからないが震える手で指を鳴らした。
パチンッ
案の定、動きは止まる。やはり、さっきのは何かの手違いだ。
そう思ったのも束の間、我を仕留めようとしている奴の拳が小刻みに震え始めた。
時間は完全に止めたはず…。
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