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盗み聞きですれ違い!?
何気ない日常の一コマでも気持ちの在り方で見える景色は変わってくる。 ただ道を歩きアスファルトの隙間から顔を覗かせる花を見つけただけで嬉しくなる。
豊(ユタカ)は朝学校への道をスキップしそうになりそうな足を押さえ付け歩いていた。 待ち合わせの十字路では彼女である明日花(アスカ)が待ってくれている。
豊に気付くと嬉しそうな顔を見せ手を振った。
「おはよ。 今日も可愛いな」
「へへッ。 嬉しい!」
だがそんな気分も長くは続かなかった。 明日花がコンクリートブロックの向こうを眺めるのに気付かないフリをして歩くよう促す。
「じゃあ行こうぜ」
「え、行くってどこへ?」
「学校に決まってんだろ? それ以外に何かあるか?」
「待ってよ、まだ二人は来ていないから!」
「たまには二人で登校もいいじゃないか」
「駄目! 四人一緒なの!」
初めから分かっていたことだった。 待ち合わせは最初から四人いるのだから。
―――・・・どうしてそんなに四人行動をしたがるんだよ。
―――俺と二人きりになるのが嫌なのか?
―――まぁ、理由はそれだけじゃないことは分かっているけどな。
待っているともう二人も到着した。 涼太(リョウタ)と沙彩(サアヤ)だ。 長い付き合いである上に、二人も彼氏彼女として付き合っている。 言ってみればWデート、ではなくW登校ということになる。
明日花が二人を見て茶化すよう言った。
「おぉ! 二人共、今日もラブラブだね!」
「そっちも朝からラブラブじゃないか。 あ、それよりさ! 昨日のNステ見た!?」
「見たー! 超カッコ良かった!」
豊と明日花、涼太と沙彩、カップルなのはこの二組であるが出会った途端話し始めたのは涼太と明日花である。
Nステという音楽番組が昨日あったことは分かっていて、二人が好きな男性ソロアイドルが出ているのも知っていた。
二人が二人の世界を作り上げたのは自然な流れであるが、正直、豊はこれが気に入らない。 沙彩も微笑んではいるが、おそらく不満に思っているのではないかと思う。
―――・・・また今日もか。
―――明日花のこと、一人占めできないんだよな。
「昨日の新曲ヤバくない!?」
「ヤバい! ヤバ過ぎる! 滅茶苦茶カッコ良かったし!」
はしゃぎながら登校し始める二人の後を大人しく追うように豊と沙彩も続いていく。 豊も明日花が好きなアイドルに興味を持とうと思ったこともあった。
だがやはり好みというものはあり、無理矢理話を合わせようとして失敗したことがあるのだ。 それからはあまり触れないようにしている。
―――明日花は俺といるよりも、涼太といる方が楽しそうなんだよな。
―――寧ろ俺よりも涼太の方が好きなんじゃねぇの?
隣を見ると浮かない顔をしながら二人の後姿を眺めている沙彩がいた。
「・・・大丈夫か?」
「え? あ、うん。 涼太は明日花といる時楽しそうだなって・・・」
「・・・」
「あ、ごめん!」
「いいよ、別に。 俺もそう思っていたところだ。 つか、既にあの二人は付き合っていたりしないよな?」
「ちょっと、止めてよ!」
「冗談だ」
「でも・・・」
「・・・ん? 何だ?」
「ううん、やっぱり何でもない」
「? 沙彩はちゃんと涼太のことが好きなんだろ?」
「当たり前じゃない」
「俺もちゃんと明日花のことが好きだ。 この想いは変わらない」
「・・・」
沙彩は何も言わずにただ頷いた。 豊も沙彩もパートナーと別れる気はない。 学校へ着くと各々分かれた。 クラスは豊と沙彩。 明日花と涼太で分かれている。
―――本当に誰だよ、こんなクラスの分け方にしたの。
―――意地悪過ぎるだろ。
「また教室に遊びに行くね、豊!」
「あぁ」
「じゃあ沙彩、また後で!」
「うん、また後で」
「「はぁ・・・」」
二人が去ると豊と沙彩は溜め息をついた。 見えないところでまた二人が盛り上がるかもしれないと思うと気が気ではないのだ。
「・・・おい、大丈夫か?」
「そっちこそ。 毎日笑顔を保つのが本当に大変」
「本当にな。 どうして毎日嫉妬しながら学校生活を送らないといけないのか・・・」
「でもこうなっちゃうっていうことは、相手のことを信じていないからなのかな?」
「どうなんだろうな・・・」
―――あぁ、また今日も長くてモヤモヤした一日が始まるのか。
分かってはいたことだが、朝の晴れやかな気持ちは既に鬱々とした気持ちに負けてしまっていた。
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