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3.森と共に生きる民
「昨日の夕食に茸が出ただろ。あと、根菜な。森の民なんていうと木の実ばかり食べてそうなイメージだけど、ウェスタンヒッツでは意外と果実は少なくて、日々の食料の大部分は土から直接採れるもので占められている」
ケイクは足を組んで椅子にそっくり返りながら、右手に握ったペンで虚空を掻いた。
一応耳を傾けてはいるが、ケイクがこの状態に入った時に発する言葉のほとんどが独り言に近いことは分かっていた。大学で講義を聞いていた頃と同様に、眼鏡をかけ、左手には小振りのノートを手にしている。
「ノイゼンのマザーエッグは坑道で採掘された。他の多くのオーバムと同様、地中から発見されたんだ。ウェスタンヒッツの伝承の中で語られている守り神との邂逅が、実はウェスタンヒッツの祖先に当たる人達が食料をかき集める過程で地中から発見したものだったって可能性は十分にあり得る」
あてがわれた部屋にベッドが置いてあったのは幸いだった。隣の部屋から来たケイクが一つしかない椅子を陣取って考察を始めた時、こうして縁に腰掛けて聞いていられる。
「それに」
「なぁ、どうしてマザーエッグの話をしないんだ」
終わりが見えなくなる前に、ケイクの大きな独り言を遮る。
ケイクはきょとんとした様子で、ペンを回す手を止めた。
「してるだろ、今」
「そうじゃなくて。ジュノさんに、だよ。守り神の正体が、一時期世界を賑わせたマザーエッグかもしれない、って話をすれば彼の気も変わるかもしれないじゃないか。彼は俺達が諦めて帰るのを待っているんじゃないのか」
ジュノの家の二階に間借りさせてもらってから、既に六日が経過していた。
とりあえずという形で泊めてもらったのをいいことに、なんだかんだとそのまま居座り続けている。ケイクは来る日も来る日も粘り強く交渉を続けていたが、守り神の開示は保留にされたままだった。
「もしも守り神様がマザーエッグだったとしたら世界的な大発見なんですよ、って言うのか? ジュノさんに?」
「だって事実だろう。本当に守り神がマザーエッグだとしたらこんなところに眠らせておく訳にはいかないし、それに」
「あのなルシオン、それはな、侵略者の所業なんだ」
今度はケイクがこちらの主張を遮る番だった。
ケイクは微笑を浮かべながら、ペンを間に挟んでノートを閉じた。
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