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再び前を向いて歩き出す。ほどなくして、木の幹の影からはみ出して大きく揺れるブランコが見えてきた。その周りに複数の小さな人影がたむろしているのがここからでもよく見える。
「あっ、ルシオンだ!」
こちらの存在にまず気付いたのは、ブランコを漕いでいた少年だった。近付いていくと、彼はブランコが前に振れた勢いに合わせて縄から手を離し、上手い具合に地面に着地した。
「あー! 目上の人を呼び捨てにしちゃダメなんだぞ!」
「なんでぇ、いいじゃんか、別に」
「昨日母ちゃんに怒られたんだ、ちゃんと騎士様って呼びなさいって」
初めてジュノの家を訪れた日に窓から覗いていた子供達は、よそ者の自分にもすぐに懐いてくれた。それだけこの村では家族以外の人間とでも大人と子供の距離が近いのだろう。
「いいよルシオンで。自由騎士なんてそんなに偉いもんじゃない。でも、もしこの村に別の大人が来た時はちゃんと敬語を使った方がいいかもな」
子供同士の言い合いを仲裁していると、頭上で派手に枝葉が擦れ合う音がした。ブランコがつないである太い枝から飛び降りたのだろう。瞬きの一瞬後には、額に布を、腰には毛皮を巻いた少年が目の前で地面に手をついていた。
「遅いじゃんか、もう先に行っちゃおうかと思ったぞ」
今年で十七になると言っていたか。村の子供の中でも年長の少年ランディは、布の間から零れる黒髪の奥から深い蒼の瞳を覗かせて言った。立ち上がると、身長は自分とさして変わらない。
「君達が早すぎるんだよ」
「都会の人間はねぼすけなんだな」
ランディは笑いながら肩や髪についていた木の葉を払った。
「で、今日はなにするんだ? 蜜花の群生地に行くか、釣りにでも行こうかって話はしてたんだけど」
隙あらば腰から下げている剣に触ろうとしてくる子供達をいなしながら、小考するそぶりを見せる。
「ケイクが肉を食べたがっているんだ。なんとかなるかな」
「おーいいねぇ、じゃあ狩りに行こう。ああ、でもそうなるとこいつらは連れていけないな。十五になるまで森の奥には入っちゃいけないことになってるから」
「剣は駄目だって、本当に危ないから」
懲りずにまとわりついてくる子供達と格闘する様を見てか、ランディは声を上げてまた笑った。女子供の心を掴むのは大事なことだ、とケイクは言っていたが、どうにも自分には荷が重い。
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