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「おい、お前ら、今はいったん解散だ! えーと、そうだな……帰ってきたら獲物を解体したいから、もし暇な奴は昼過ぎにもっかい集合な」
年長のランディが声を上げると、子供達はぴたりと動きを止めた。
「……ランディは? どうするの?」
「オレはルシオンと一緒に森に入る」
「えー!」
「ランディのずる!」
「うるせぇ! 村の決まりなんだからしょうがないだろ!」
それにお前らがいたらうるさくて獲物に逃げられるのが目に見えてる、と付け加えて、ランディはこちらに向き直った。
「さあ、そうと決まれば行こうぜ」
ランディの手招きに便乗して、まだなにか文句を言っている子供達の輪の中から抜け出す。
「ごめんな、帰ってきたらまた遊ぼう」
一人一人の顔を見回しながら声をかけたことで、ようやく子供達は折れたようだった。口を尖らせながらも見送ってくれる、その姿に安堵する。
ランディはブランコがある場所から村の中心部に背を向けて歩き出した。子供達の姿が見えなくなり、視界の右側から一切の丸太小屋が消えたところで、ランディは腰に巻き付けた布袋から種の小瓶と、紫色のオーバムを取り出した。
ほとんど外界から隔離されているウェスタンヒッツでも当然の様にオーバムが使われていたことは、意外といえば意外だった。だが冷静に考えてみればオーバムは地中から採掘されるもので、使用方法も至ってシンプルだ。共通認識がなくとも、世界中で同じような使われ方をすることはあるのだろう。
ランディは小瓶の蓋を開け、紫色のオーバムを受精させた。ランディの掌の上で一握りに出来るくらいの壺状に形を変えたそれは、糸状の光を吐き出し始める。ウェスタンヒッツに来た時、ケイクが使ったのとはまた違うタイプのマーカー・オーバムなのだろう。
「なぁルシオン、ルシオンは今、村長んちの二階で寝泊まりしてるんだろ」
ランディは腰紐にマーカー・オーバムを結びつけながら尋ねてきた。質問の意図を理解しかねて首をかしげる。
「今夜さ、ちょっと出てこられないかなーって。森の外の話を色々聞いてみたくってさ。今は二人だけど狩りの最中は喋れないし、ほら、昼間だとあいつらがついてきてゆっくり話なんかできないだろ」
今さっき振り切ってきた顔を思い出しているのか、ランディは肩を竦めた。光の糸の先端が足元の地面に触れたことを確認してから、本格的に森側に足を踏み入れる。
「夜に出歩くと怒られるんじゃないのか」
「ばれなきゃ大丈夫だよ。マリスさんとリデルさんだって、夜のうちにこっそり村を出る準備を進めてたんだし。あ、だから余計に夜の外出がダメになったっていうのもあるんだろうけどさ」
唐突に知らない名前が出てきて言葉に詰まる。返事がないことを訝ったのか、少し先を歩くランディの顔が振り向いた。おそらくは言葉よりも饒舌に無知を語っているであろうこちらの表情を確認される。
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