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「アーサーレオの王国騎士団って、教授達からの依頼も来るんだろ」
ああ、それで自分につながったのか、と合点がいく。
アーサーレオという国の特性上、王国騎士団の大部分を構成する自由騎士は身分の保証に加えて、ある程度融通の利く生活が約束されている。大学は出たが院には進まなかった自分にとって、王国騎士団はちょうどいい“落としどころ”だった。
「たまに。敢えて俺がその依頼を受けはしないけどさ、今回みたいに指名されない限りは」
「なんで。フィールドワークの付き添いなんてぶっちゃけ楽な仕事だろ」
通年アーサーレオ本国に駐在している近衛騎士団とは違い、自由騎士団は平常時から広く民間の依頼を請け負っている。旅商人の護衛、要人の身辺警護等、基本的には依頼者の任意だが、国が指定した一定の地域に出向く際には護衛を雇わなければならない決まりになっている。
光の破片を視界に注がれ、目を細める。どこからか舞い降りた木の葉が撫でた鼻先が妙に気になって拳で擦る。
「相手がケイクならともかく、教授の護衛でずっと一対一なんて気まずすぎるだろ」
「そりゃ間違いないな」
ケイクが笑う。離れていた二年間などなかったかのように距離が縮まる。学部の特待生だった親友と、平凡ないち学生だった自分。そんな関係に立ち返る。
「というか、今回の依頼は大学とか研究室が金を出してくれているわけじゃないんだよな?」
自由騎士契約なんて高かっただろう。
と、喉まで出かかって寸でのところで止める。院生のケイクがどうやって契約費を捻出したのかという純粋な疑問だったが、現在の立場の違いを考えると下に見ていると受け取られかねない問いでもあった。そんなこちらの胸中を知ってか知らずか、ケイクは不敵に口角を上げた。
「おれみたいな優秀な院生には研究奨励金というやつが出るんであってだな」
「それは充実した日々を送っているようで何よりだ」
自分には全く縁のなかった選択肢を当たり前のように提示する親友に棒読みで返す。思えばケイクは学部時代も返済不要の奨学金を受け取っていた。さっさと学問の道を諦め、現実的で不自由のない生活に落ち着いた自分とはそもそもの人種が違うのだった。
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