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「嫌でもやるさ。お前は俺と違って、お人好しだからな」
こちらの全ては見透かされ、把握されている。ウリックと対峙すると、いつもそんな気分になる。
ウリックさん、あなたは一体、なにをしようとしているんですか。
喉まで出かかった言葉は舌まで届かないうちに重力に負け、ゆっくりと腹に落ちていった。自分が問い直したところで、セレスタが尋ねても返ってこなかった答えが得られるとは思えない。そんな諦観が半分と、これ以上聞いてはいけないという、もう半分の圧力が自分に口を結ばせる。
「……大分日が落ちてきやがったな」
ウリックは後部の幌を開けると、射し込んできた斜陽に目を細めた。内ポケットから煙草を取り出し、火を着ける。物思いと共に吐き出された紫煙は、夕色の光の中に溶けて消えた。ただ匂いとしてしか残らないそれに干渉することはできない。
「……ルシオンさん」
幌の外に顔を向けたウリックのすぐ隣で、セレスタが口を開く。
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