6.ウリック=ボールドウィン

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「せめて宿場町の近くまで行きたかったんだが……あんま暗くなりすぎても都合が悪いしな。おい、馬車を止めてくれ」  ウリックは馬車の前方に移動しながら、御者に呼びかけた。御者台につながる前側の幌を開き、二言、三言を交わすことでようやく馬車が止まる。ウリックは御者に駄賃を握らせると、こちらに向けて指で馬車を降りるように指示してきた。セレスタと顔を見合わせながら、戸惑いつつも街道に降りる。  やはり街道の片側は広葉樹の林になっていた。間隔の空いた木々の隙間から、夕色が路上にまだら模様を落としている。間を置かずにウリックが外に出てくると、すぐに御者台の方で手綱が鳴った。馬がいななき、馬車が自分達を置いて去って行くのを漠然と見送る。 「一体どうするんですか。こんなところで降りて、馬車を行かせてしまって」  夜が刻々と迫っているからだろう。自分達以外には、街道を通る影すらない。夕日に染め上げられた林と平原が広がる世界に、自分を含めた三人だけが取り残される。 「だから、本当はもう少し街に近いところまで行っておきたかったんだ。ま、お前の魔法がありゃ後のことはなんとでもなるだろ」  ウリックは答えになっていない答えを口にしながら、セレスタに手を差し伸べた。セレスタはどこか縋るように父親の手を取る。徹底して人目を避けようとしているのか、ウリックは相変わらずなんの説明もなく林の中に向かって歩き出した。街道を見失わない程度に草地を踏む父子の後を、ただ黙ってついていく。
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