6.ウリック=ボールドウィン

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「……そうだな。面倒を掛けちまう分、もう一つ。お前には教えておいてやらねぇとな」  セレスタの歩幅に合わせて歩くウリックの背中が、思い出したように語り出す。 「ラベルにとって、お前は“鍵”だ。ラベルがお前を狙うのはただの興味本位じゃねぇ。反乱分子の排除、ってんでもな。ラベルがなにをしようとしているのかは知んねぇが、その計画にとってお前が必要不可欠な存在なのは確かだ」  さらりと告げられた重要な事実を、自分の中で噛みしめるように、ゆっくりと反芻する。 「鍵、ですか……? 俺が、ラベル=クエイドにとっての」 「ああ。だからエンディールに行くならてめぇのことを調べろ。その魔法の秘密を明らかにしろ。……ま、これは俺のお節介だがな」  ウリックの後ろ姿がこちらを振り返らずに肩を竦める。  ラベルと自分とは、直接的には面識がない。そしてラベルが欲しているのが単純に魔法使いという存在であるならば、仮面の男がいれば事足りる。  つまりは自分が人為的に生み出されたのではない、天然の魔法使いであることに意味がある。  歩みは止めないまま、久し振りに意識して左手の甲に視線を落とす。そこには変わらず、ウェスタンヒッツの森で自分に喰いついてきた銀色甲虫の姿があった。もうほとんど自分の一部のように馴染んでしまったそれは、ただ鈍い光を反射するだけでなにも語ろうとはしない。
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