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「すみません」
少し遠間からケイクが声を掛ける。彼女達の一人がこちらに気付くと、波が引くようにおしゃべりの声がやんだ。連鎖的に、全員の視線がこちらを向く。
「ええと……私達はサウスヴェール国立大学院から来た者です。ちょっとお伺いしたいことがあるのですが」
まるで生まれて初めて見る生き物を見るかのような視線を受けて、一瞬言葉に詰まりながらもケイクが切り出す。
「ウェスタンヒッツの文化についての研究にご協力いただきたいと考えているのですが、そういった用件はどちらにお伺いすればいいでしょう」
女性達は互いに目配せをしあった。困惑の表情から察するに、突然の部外者に対して結束する、という感じではない。どうしたらいいのか分からない、というのが本当のところだろう。
「……村長に直接話をしてもらった方がいいんじゃない。あたし達はちょっと、そういうことは分からないから」
一番ふくよかな女性が四人を代表して口を開く。この女性が特別なのか、外部との交流が極端に少ないウェスタンヒッツ特有のものなのか、喋り方に独特の訛りがあるが聞き取れないほどではない。
「分かりました。村長さんはどちらに?」
「村の北側の、一番大きな家が村長の家だよ。二階建ての家は一つしかないからすぐに分かると思うよ」
「ありがとうございます」
ケイクと女性の会話を聞きながら、視界の端で動いたものを捉える。眼球だけを動かしてそちらを見やると、やはり民族衣装を着た男が少し離れた木陰から飛び出し、どこかに走っていくところだった。
「行こう、ルシオン」
女性達に会釈をし、北に爪先を向けて歩き出す。一度だけ彼女達を振り返ると、まだこちらの様子を窺いながら、ひそひそと小声でなにかを話し合っていた。その後も当然、幾人かの村人達とすれ違うが、その度にどこか遠巻きな視線を向けられる。太い枝からブランコが吊るされた遊び場では子供の姿も見かけたが、子供達はもっと素直で、物珍しそうな表情を隠そうともしなかった。
「排他的……とまでは言わないけど、ちょっと、友好的とも言い難い感じだな」
「仕方ないさ。実際におれ達はよそ者だしな。外から滅多に人が来ない環境なら尚更だろ」
「でも、この空気の中で交渉するんだろ。マザー……守り神の調査を」
「とにかくやってみるしかないさ」
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