2.ウェスタンヒッツ

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 ふくよかな女性が言っていたように、二階建ての家屋はすぐに見つかった。 入り口の前には三段ほどの階段があり、屋外に設置された木造床ともつながっていた。ケイクが先に段差を上がり、小窓がついた入り口の扉をノックする。 「突然の来訪、失礼いたします。村長さんはご在宅でしょうか」  声をかけ、しばらく待つ。ほどなくして最初の関門が内側から開いた。  出てきたのは体格のいい初老の男性だった。ケイクと比べると若干明るめの茶髪に、口と顎の両方に蓄えた髭。その全てに白髪が入り混じっている。例に漏れず民族衣装に身を包んでいるが、上衣はほとんど毛皮だった。顔に深く刻まれた皺からは老いによる衰えよりも、長らく森で生き抜いてきた強さを感じさせられる。 「外から来た、学者さんだね。今回はまた随分と若い人達が来たものだ」  初老の男性はやはり訛りの強い、しわがれた声を発した。  井戸で会った四人の女性達との会話を聞いて、どこかに走っていった男の存在を思い出す。 「サウスヴェール国立大学院の、ケイク=ルーベンスです。こちらは護衛として付き添ってくれているアーサーレオ王国騎士団のルシオン=ソート」  ケイクの紹介を受け、一礼する。こちらに向いた初老の男性の視線が、再びケイクに戻る直前、腰に下げた支給品の剣を一瞥する。 「お察しいただいた通り、ウェスタンヒッツの守り神文化に興味があって来ました。少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」  初老の男性は眉一つ動かさなかった。しばらくして、髭の中で結ばれていた口がゆっくりと開く。 「まぁこんなところで立ち話も難だ。入りなさい」  初老の男性に促され、屋内に通される。  加工された木に包まれた空間は、不思議な温かみを帯びていた。煉瓦を積んで作られた暖炉に、生活の中で平たく色褪せた絨毯。壁に調理器具がぶら下がっている間仕切りの奥は炊事場だろうか。夕食の仕込みの最中だったのか、微かに香草の香りがする。  室内右手側に置かれた四人掛けのテーブルを手で示される。一旦荷物を床に下ろさせてもらってから、初老の男性と向き合う形でケイクと共に席に着く。硝子などはめ込まれていない開閉式の窓から西日が射し込んできて、少し眩しい。
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