p.m.03:00

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カチカチと規則正しく刻む時計の秒針を除いて、この部屋は無音であった。 一丁前に反抗期を迎えた私はそのまま高校を卒業し、ダイガクセイになり、晴れて“自由”を手に入れた。自由を手に、憧れの一人暮らしをはじめた私は今、あの頃の私が知らない世界を生きている。自分のセカイの話など、誰にも受け入れられず、大多数のロボットのような人間を模倣して“ロボットのふり”をしないと“社会不適合者”のレッテルとともに弾かれる世界。あたりまえは失ってその重みに気づくものだ、とよく耳にするが、またその真理もあたりまえを失ってこそ理解できるものなのだ、と思う。 ふとアナログに音を立てる時計に目をやると、針はちょうど直角をつくっていた。短い方は3を指している。急に思い立って、段ボールの中の赤い果実を手に取った。今朝届いたばかりのその箱の中でそれらは一際存在感を放っていた。 ────そういえば、私はこの果実に包丁を入れる方法を知らなかった。仕方なしに、まるいまま私はセカイと愛の表面に歯を当てた。ひとりきりの空間に、しゃくり、と瑞々しい独白が響いた。甘酸っぱい蜜が喉にしみる。 大人になるとは、そういうことだ。
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